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起章:第五幕:もうやめて!精霊さんのライフはゼロよ!

起章:第五幕:もうやめて!精霊さんのライフはゼロよ!


 

「それじゃあ、話を聞こうか。ゴミ。なんでイニェーダ様を抱き寄せていた?」


 天国のお父さん、お母さん。尊は今一七歳です。そして生まれて初めて、取り調べを受けています。ついでに、ゴミ扱いされました。床に正座(自分から反省する図を考え、コレに至った)し、申し訳ない気持ちが無いわけでないが、とりあえず申し訳なさそうに。

 しかも、取り調べを担当しているのは、クフィアーナの実を一瞬で見つけて、瞬時帰ってきたフェリアさんです。何を言っても信じてもらえなさそうです。

 頼みの綱のイダさんも、なぜか隣に正座で座り、フェリアさんを説得してくれています。

 

「だ、だからリア、別にミコトは私に変な事をしようとしたんじゃなくて(……それに……その、うれしかったです……し……)」

「イニェーダ様は少し黙ってて下さい。今、コイツをどう殺すか考えてる所ですから」

「すでにデッド・オア・デッドなんですけど!?」(イダさん小声でなんか言ったけど、聞き取れなかった……)


 フェリアさんはガチギレモードらしく、つい先刻「ミコトの前ではイダに対し、敬語を使わない」という約束を守れていなかった。それくらい怒りをあらわにする理由は、当然イダを抱き寄せていたからだと思われるが、いささか度が過ぎているようにも思える。が、口には出さない。


「リア、とりあえず落ち着いてください。本当に私は何もされていませんから」


 名前を呼ばれ、微かに肩が震え、申し訳なさそうな表情のまま、イダさんに顔を向けるフェリアさん。

 その表情は、申し訳なさそうな物から、頬を赤くし照れたような表情、なにか苦虫でも噛み殺したかのような苦痛を伴う表情、と目まぐるしく変わり、結局心配しているような表情へと変貌を遂げ、落ち着く。


「イニェーダ様、大変申し上げにくいのですが……その、身体にはなんの不調も無い……のですか……?」

「特になにもありませんが?」

「そ、その……吐き気がする……とか、食欲が無いだとか……。ど、どんな些細な事でも構いません!……私も経験が無いので……その、何とも言えないのですが……。ふ、不安に思うのはなんとなくわかります!……ですからどんな些細な事でも仰って下さい!」


 イダさんは、なにか持病でもあるのだろうか、と一瞬不安になり、イダさんへと視線を向けるが本人にもなんの事なのか理解できていないようで、フェリアさんの発言に疑問を抱いているようだった。イダさんからフェリアさんは姉の様な存在である、とは事前に聞いていたがこれはいささか度が行き過ぎている、シスコンの域なのだと理解を深める。


「い、いえ、本当になにも……」

「ですが、人間種とは言え……お、……男に抱かれたのですよ!?そ、その……、た、大変申し上げにくいのですが……お、お子を身ごもったのでは……?」


 不安が爆発した、というかフェリアさんは爆弾発言をした。フェリアさんが言った言葉を耳にし、理解し、返事をするのに数秒かかり、返事をすると、


『……は?』


 と、イダさんと完全にかぶった。


「ま、待って下さいッ!イニェーダ様のお子となれば、人間は殺すにしても、私も嬉しい所存ではあります……ですがっ……わ、私も心の準備期間が欲しいのです…ッ!数秒お待ちください!」


 それは、僕を殺すのに数秒の心の準備が必要なのでしょうか?それとも、イダさんのお子さんが生まれる事について、心の準備が数秒必要なのでしょうか?えぇ、わかっています。後者ですね。そもそも、フェリアさんが僕を殺すのにコンマ数秒でも葛藤が生じるはずがありませんし。

 内心、何を言っているんだ、この人は。とは思いつつも、ココが異世界である事を考えると、僕の常識はどこまで通用するのかわからず、不安となりイダさんの顔を見つめるが、視線に気づいたイダさんは顔を赤くし、左右に大きく頭を振った。 

 その様子に心を和ませながらも、若干夢の世界へ羽ばたきつつあるフェリアさんを無視し、イダさんへと小声で会話をする。


「(あ、あのイダさん……。僕はこっちの世界のそういった事情には完全無知です。フェリアさんがおっしゃっている事は本当なのですか……?)」

「(いえ、人里離れて育ったせいでしょうか……。私もここまで残念な事になっているとは……今まで知りませんでした……)」


 それは姉の一般常識の欠如を意味し、内心かなり恥ずかしいのだろう、後半は消え入りそうな声で、そういった。

 そして、当の本人は夢の世界から戻ってきたらしく、近づいている僕らを見て、怒りをあらわにし……、内心なにかを期待しているかのような目で、


「おい、人間!それ以上、イニェーダ様に近づくな!こ、これ以上、ナ、ナニをしようというのだ!」


 と大声を上げ、


『ナニもしねぇよ!(しませんよ!)』


 とコンマ数秒で返事をした。


「と、とりあえず、イニェーダ様!重い物などはもう持たないでください!私も、もう旅に出るのはやめて、この家に住みますので!」


 イダさんの否定の声も届かず、完全に脱線した思考を戻そうとしないフェリアさんを元の世界に引っ張ってこれるのは目の前で一緒に正座しているイダさんだけだった。


「あの……、イダさん……。僕から言っても逆効果だと思うので、……そのフェリアさんに正しい知識を教えてあげてくれませんか……?」

「承りました……。少々お待ちください……」


 立ち上がるなり、ため息と同時にフェリアさんの耳をつまみ、強引に部屋の外へ連れていく姿は、どことなく哀愁を帯びていた。


「あ、ちょ、イニェーダ様!耳は、耳は引っ張らないでください!痛いです!」


 そして、一人部屋に残された僕は何をするでもなく、ただ二人の帰還を待つために正座を続けた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 数分後、開け放たれた戸から、なんか悟りでも開いたかの如く、菩薩顔のフェリアさんが登場した。続いて部屋に入ってきたイダさんは耳の付け根まで真っ赤になり、うつむき、特徴的な耳が下に下がっていた。

 この二人にいったい何があったのか、どうイダさんが説明したのか興味がわいたが、「めしべとおしべめしべとおしべ……」と小声で念仏を唱えているフェリアさんはそのまま部屋の隅へ移動し膝を抱え、体育座りをしてなおもぶつぶつと念仏を唱えていた。

 その様子を見て、何かしらの洗脳でも施したのかと思い、イダさんの苦労をねぎらうべく言葉をかける。

 

「お、おつかれさま……です……?」


 言葉をかけると、肩を一瞬震わせるが、なにも返事がなく、より一層うつむき、耳を下がる。というか、その耳、可変式なんですね。 


「……イ、イダさん……?」

「……、ミコト。私は少し休みます……。リアはあのまま放置しておいてください……」

  

 有無を言わさず、隣のベットへと入り込み、こちらへは背を向け、休まれる姿に「イダさん、お勤めごくろうさまです」と心の中で伝え、立ち上がりイダさんが準備してくれた冷めた料理を一人寂しく食べた。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 夢を見ていた。現実世界の夢。優しく微笑む女性が僕を見下ろし、頭を撫ぜてくれた。その女性に手を伸ばそうとすると、視界に映る手は小さく何もつかめない手なのでは、と不安になる程だった。

 当然その手は何もつかめず、女性の頬にすら届かなかった。その事が悔しかったのか、或いは腹が立ったのか、その両方か。僕は泣きだしてしまった。それに反応し、少し困ったように笑みの形を変え、涙を流し始める女性。

 そして、世界は止まる。色の付いていた夢も徐々に色あせ、一枚のモノクロ写真のように変わっていき、火であぶられたかのように虫食み状態となり、焦げ落ちる。


「……母さん!」


 寝ていたのを飛び起き、周囲に視線を配り記憶の中だけの「母」を探す。当然、居やしないし、そもそも住んでいる世界が違う。いや、現実世界に居ても、もう住んでいる世界が違う。

 わかっていた事だし、いい加減この目覚め方はなんとかならないのか、とさえ思うが改善されない。未だに自分が母を求める年頃なのか、と思うと恥ずかしくなる。

 二度、三度頭を振り、窓から見える景色から陽がかなり落ち、橙色に染まっていた。続けて、イダさんが起きたのか確認しようと横を見ると、椅子に座って起きるのを待ってくれていたのか、目を丸くしているイダさんと目が合った。

 そこで、僕が何を口に出して飛び起きたのかを思い出した。


「……、カ・アサン。と言って、前の世界では有名な神様の名前なんです……」

「い、いえあの……、意思が伝わってしまうので……、まぁ一応口にした言葉だけ、となるのですが……ミコトがうなされていたのが気になって……夢見してしまいました……。ですから、ミコトがお母さまの事を夢に見ていた事も存じてます……。ミコトのお母さまは……その」


 魔法とは厄介だな、この時は素直にそう思った。右手で頬をかきどう説明すれば同情されないのか、と考えをまとめる。

 幼い事の出来事の上に、家丸ごと燃え写真なども残っていない。身寄りもない。そんな子供が行く場所ある。無論、自分みたいな事情の子供いれば、全く別の理由でいる子もいた。

 そんなケースでも僕はかなりマシな方だと思っていた。そう思える程の事情を抱えていた子も居たからだ。極力、イダさんには同情とか抱いてほしくない。だから、


「死んだよ。父さんも一緒に。火事だったらしい。家は全焼、何故か僕だけは助かってね」


 そう、さも気にしていない。もう吹っ切れている、と伝えたかった。事実、時々夢に出るくらいでそれ以外に支障はない。そもそも、記憶の女性が本当に「母」なのかさえ、わかっていない。

 ただ、子供の頃はそう思う事で、救われる自分が居たのは事実だった。だから自分への魔法にしても、今の夢にしても、「母親」という認識でいる。


「そうですか。一緒ですね。私も父母はいません」


 さも、何も珍しい事ではありません、と言わんばかりに苦笑しながら伝えられた事実に、少し驚く。ただ、どうしても「本当に?」という思いを隠せなかった。

 

「そうだ、少しお互いの事をお話しをしませんか?」

「お互い、ですか?」

「はい」


 そう微笑み手に小さな精霊を集め、少し大きめの精霊の塊を作り、イダさんの周囲を漂わせる。


「この子たちは、言霊に非常に正確なんです。偽りが効かない存在として、重宝します。今少し細工をしてみましたので、一つ何でも良いので「嘘を言って」ください」

「え……。じゃあ……「僕には恋人がいます」」


 内心、恋人ではないが恋人に近しかったであろう、布部の事を思い出しながら答えた。

 するとイダさんの周囲を漂っていた精霊は、白色に光っていた色が変わり、淡い赤い色、ピンクの様な色になり輝く。


「このように、嘘を言うと度合により薄い赤から濃い赤へ、真実であればその度合に応じ薄い青から濃い青へと変わります。今のミコトの嘘には、さしずめ「恋人は居ないが、近しい人は居た」そういう意味合いでは?」

「す、すごいですね……。ただ恋人というか、妹のような存在の事を思い浮かべてただけです」


 そう伝えると、濃い青へへと変わる。その変化を見て、何故かイダさんが安心したかのように息を吐いたのを視認する。


「お互いに真実かどうか、などと探りを入れながらお話しするのは嫌ですし、この子を用いての会話でも宜しいですか?」

「了解です」


 了承すると、イダさんは胸に手を当て、軽く会釈をする。


「では私から。名前はイニェーダ・ルミル・アリシュ。仲の良い人からはイダと呼ばれています。魔法薬師をしていて、主に普通の薬師や医師では治せない傷病人の情報をリアが各国を回り集め、その方に対応する薬の調合を行い日々の糧を得ています。最も、材料費などほとんどかかっていませんので、基本は無償で提供しているのですが……種族は……エルフ、です」


 魔法薬師、というワードに聞き覚えは無かったが、医者みたいなものだろうと勝手に理解し、未だに部屋の隅で膝を抱えブツブツ言っているフェリアさんの意外な情報を聞き、驚く。また、最後なぜ一瞬の間があったのか謎だったが、精霊は濃い青を示し「真実」である事を伝えていた。


「僕は、大柴尊。一七歳。高等学校っていう一五歳くらいから通う学校の二年生。弓術部っていう弓を使って競い合う人たちと練習してた。仕事は無い、というか大体は高校を卒業した後に仕事に就くか、進学するかを選ぶんだ」


 精霊は濃い青を示し、自らの誠実性が伝わったのを確認すると、少しうれしい気持ちになった。


「ここからは質問形式にしていきましょう。私が問いますので、ミコトは返事をしてください」

「わかった」


 一度咳をし、声音を整えるイダさん。


「まず最初に、どうやって或いはなんの理由でこの世界、グレインガルツへと訪れたのですか?」


 やはり、それか。と内心わかっていた質問へ上手く答えられるか自信がなかった。


「わからない、かな……。電車っていう乗り物があって、その電車が人を乗り降りさせる場所の駅っていう所で、電車が来るのを待っていたら、白いローブを羽織った男性が黒い穴から現れて、手を握ったら森の遥か上空だった」

「その白いローブというのは、ミコトの世界の代物ですか?」

「いや、見たこと無い。所々に金の装飾を施されてて、あとは……左手すべてに色の違う指輪をはめていた事かな……」


 言うと、イダさんは顔を真っ赤にし、うつむき耳を下げる。この人、精霊使って「うそ発見器」使わなくても表情に出るからすぐわかってしまうんですけど……。


「あ、あの、何か……左手の指輪って意味があるんですか……?」

「……わ、わかりません」


 そう俯きながらイダさんは答えるが、精霊は赤を示し「嘘」である事を如実に語っていた。ていうか、精霊さん見たらまんまわかります。この人ポーカーフェイスとかできないタイプです。


「じゃあ次は僕からの質問。知らないなら、良いんだけど、その白いローブの男性に心当たりは?」

「……そうですね……、別段この世界では上位の魔法使いなのであれば簡単に入手できるような代物だと思います。重ねて、黒い穴というのはおそらく転移魔法の痕だと思います。ですがそれだけでの情報では人物の特定は難しいです……」


 イダさん。さらっと指輪の情報スルーしましたね?僕は聞き逃しませんでしたよ?ほら、精霊さんもかなり薄い青じゃないですか。

 イダさんもその精霊の状態を見て、良しとしなかったのか早々に話題を切り替える。


「で、では次に、私が……。疑問に思っていたのは、何故ミコトがエルフという存在を知っているのか、という事です。確かミコトの世界は人間しか居ないと言っていましたが、何故エルフの存在を知っていたのですか?」


 確かに言い方が悪かった気がする。


「……僕らの世界には、本当に人種は人間しか存在しないよ。ただ、漫画やゲーム、一種の娯楽の世界、書物の世界の中ではエルフっていうのは実在しているんだよ。これがエルフだ!っていう明確な基準はないけど、特徴的なのは長い耳を有している事、不老不死もしくは長命である事、魔法や弓が得意な事、くらいかな?」

「ほとんど当たりです……。驚きですね……」

「例えば違いってどの辺なの?」

「そうですね、まず最初にエルフの耳の長さは個人差があるので、短い部類の人は人間種大の大きさの人もいます。判断するのであれば、耳介の形で判断すると良いともいます。上側が鋭利なかどがあるのがエルフ種の特徴です」


 そう言い、イダさんは己の長い耳の先を指でなぞる。


「次に、不老とありますが、生まれてから20前で外見年齢が止まるというだけで、不老というわけではありません。また不死というのにも語弊があります。長命というのは間違っていませんが、何らかの怪我による失血死や、高高度からの落下死、水中での溺死などで命を失うものは少なからずいます。あとは、エルフ種は人間種と違い平気で四、五百年生きるほど長命なためかいくら夜の営みを重ねても、「種の保存」という意識に無頓着なようででほとんど妊娠をしません。例え懐妊したとしても、生まれてくる子供はほぼ確実に女児です」


 後半から保健体育の講義になっていた気がするがあえてスルーしよう。イダさんもそれを望んでいるだろうし……。


「得意な技能については個人差、種族差がある、としか言えませんね」


 今更、嘘をつく必要がない、とお互いに考えているのだろう、もはや精霊を確認するまでもなく、濃い青を保っていた。


「じゃあこっちからの質問なんだけど、この世界には魔法が存在するんだよね?それは僕にも使えるの?」

「そうですね、少々手を重ねてもらってもよろしいですか?」


 と、手を差し出され、微笑むイダさん。もちろん、部屋の隅で膝を抱えているあの人を確認してから、そっと手を重ねる。

 するとイダさんは、ゆっくりと目をつむり、何かを確認するかのように静かになる。しばらくすると、


「もう結構です」


 といい、手を離す。しばらく手は洗えそうにないです。


「結論から言いますと、ミコトにも魔法は使えます。少し特殊ですが問題ないはずです。もし練習してみたいというのであれば、私が教えますよ」


 そう言うイダさんはどこか嬉しそうで、いつもの優しい表情の笑みではなくやる気に満ちた表情だった。この人は本当に表情がコロコロ変わる。

 そして一度窓の外へ視線を向け、陽の傾きを確認したのか、


「もうすぐ夕飯の準備をしますので、お互いに最後の質問といたしましょう」

「はい」

「私からは質問、というか提案なのですが、ミコトはこの世界の事、文字、言葉を覚えていません。今はアリュテミランの涙の影響で口にした言葉の意思疎通が取れていますが、これは期限付きの物で、いずれ効果が薄まります。ですので、それまでココを居として勉強をしませんか?無論これも私が教えます」

「良いんですか?」

「もちろんです」


 そう言い微笑むが、イダさんにとってなんのメリットも無いこの条件を何故提案してくれたのかが全くわからなかった。少なくともデメリットしかないイダさんにとって、しかも異世界人という不確定要素を自らの近くに置きとどめたいという理由。

 「優しい」というのは今まで接しているだけで、十二分にわかるが、それだけで一人の人間の世話をするのだろうか?と、人の親切に何か裏があるのではと思案してしまう。


「とても魅力的な提案なのですが、その提案には何か理由があるのですか?」

 

 そう素直に聞き返す事で、答えを求めるという結論に至ってしまう。


「……放っておけないから……?でしょうか……?」


 そう微笑む姿は可愛らしかったが、精霊の色は今まで見たことも無いくらい薄い青に染まっていた。これは「数ある理由の中で一番どうでもいい理由」の一つなんだろう。

 しばらく精霊を見つめていると、


「嘘がわかると言っただけで、常に真実を言う、といった覚えはありませんから」


 と、イタズラが成功したかのように微笑む。ならばこちらも切り返すしかあるまい。精霊さん、君の力を貸してくれ。


「じゃあ、イダさんは何歳なんですか?」


 世界が止まった。というか、空気が凍った。○・ワールドが発動した。五秒くらいたってからだろうか、ゆっくりと口を開くイダさんの表情はフェリアさんに怒っていた時と同じ笑顔で、


「十八歳です」


 と言うが、精霊は今まで見たことのない赤とも、黄色とも黄金とも取れる小さい太陽のような色をし、光り輝く。そして、


「ん?」


 と、笑顔でイダさんが精霊を見つめると、今まで見たこともないどす黒い青なのか黒なのかわからない色へ瞬時と変わる。

 そして、イダさんが目線を離すと、再び太陽のように輝きだす。


「あ、あの……」

「少し、精霊も疲れたんですよ。しょうがないですね全く」


 未だに太陽のように輝き続けている精霊を見つめなおすイダさん。すると先ほど同様に瞬時にどす黒い青に変わり、しばらく見つめられているうちに徐々に小さくなっていき、所々メッキがはがれ内に秘める太陽をさらけ出している姿を見て、たまらず叫んでしまった。


「もうやめて!精霊さんのライフはゼロよ!」




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