表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/109

起章:第四幕:想い、伝わり、そして……。

起章:第四幕:想い、伝わり、そして……。


 さっきから気になっている事がいくつかあった。自らを「ミコト」と名乗った人物についてだ。最初に彼を見つけたのは遥か上空だった。リアを迎えに、近くのアスール村まで向かう途中、尋常ならざる魔力作用を感じ取り、周囲に気を配った時だ。

 見たこともない服を羽織り、叫びながら落下してくる彼を最初は実在しないとされる神族なのでは、と疑ってしまった。だが、その考えは彼の行動で全く違うと確信できた。何故なら、落下中の彼は失神したからだ。

 さすがに人間界のあらゆる武器、魔法を用いても傷つけられないと言われる神族が、「高高度から落下で失神」など笑い話にもならない。そんな彼を傷だらけになりながらも、救ったのはリアだった。

 話を聞く限り、リアはミコトを助けようとして助けたのではなく、私も同様にミコトに気づいていたと思うと、助けられる命を助けられなかったと悲嘆にくれる私を見たくなくて、気づいたら身体が動いていた、と語る彼女は森の中を強引に突っ走ったのだろう、木々で肌を傷つけ、落下してきた彼を支えた際の衝撃で、肩を痛めていた。

 彼の元まで駆けつけるのに体内魔力をほぼ使い切り、衝撃吸収に割く魔力が薄れ、この結果になったと語り、苦笑するリアを見て本当に良い友達を持った、と嬉しくなった。

 そんな彼を家で手当てを行い、身にまとっていた衣類を脱がせると体つきは完全に人間種のそれだった。違いなど無いくらいに。落下する際に、木々で傷ついたのであろう怪我は決して軽い物では無かったが、命に別状はない。

 あとは何故、あんな状況になっていたのかを聞くために彼が目覚めるまで近くで待っていた。朝になり、いつのまにか傾眠してしまい、気づいた時にはミコトは目を覚まし、周囲を伺っていた。

 その様子はまるで子供が初めておもちゃをもらったかのように喜々としたものがあると察するのに十分すぎる表情だった。しばらくその様子を見ていると、私が目を覚ましている事に気づきしばらくお互いに見つめあってしまった。

 何を伝えればいいのかわからず、とりあえず「……お目覚めはどうですか?私はイニェーダと言います」と自己紹介をもかね体調の確認を行うが、返事は意外な物だった。

 いや、返事すらもらえなかった。ミコトの口が動き、何かしらの返事をするが、その言葉は私が知るものとは大きくかけ離れていた。最初は錯乱魔法でも付与されているのだろうか、と思案したが様子を見る限りそうではなく、純粋に知らない言葉を聞いている、といった表情だった。

 完全に状況が判断できるまで、しばらく彼を家に住まわせる事をリアに伝えると、烈火のごとく怒り、これを拒否した。というのにも、もちろん理由があった。それを踏まえた上でも、彼を保護する事にするとリアも渋々納得してくれた。

 その後、朝食を作りに席を外してからというもの、リアはミコトを気にかけ、食事の介助に向かうが、何れも「食えたものじゃない」と言われ突き返されたと言い、帰ってきた。私が見た限り、そこまで性根が曲がっているような人には見えなかったが、私の気のせいかもしれない、と思い久々に本気で料理に挑んだ。

 そして三度目の料理を完成させ、片付けを終え部屋に様子を見に行くと、「私」が居た。無論、それがリアの幻術によるものだ、と理解できても、多少なりとも驚く。

 イタズラ好きのリアの事だ、後で驚かせようとでもしたのだろう、と内心まとめるが、答えは以外なものだった。ミコトが急にベットに倒れたからだ。そんな様子を見て、行きつく答えはあっさりと見いだせた。 


「……リア……?」

「ッ!?」


 私に扮したリアの背後から優しく声をかけたつもりが、悪戯がばれた子供のように大きく肩を揺らし、ゆっくり振り返ってきた。


「あ、いや……。な、なんか、食事にあたったの、かな?ハハ。寝ちゃったみたい……だね?」

「まさかと思いますが……、貴女いままでの料理全てに何か盛ったのですか……?」


 返事は幻術魔法を解き、目が泳ぎ、滝のように汗をかくというものだった。大きく心を乱され、魔法の維持が出来なくなったのだろう。

 つまり、これは――。


「……リアッ! 貴女はいつもこうです! 私のためとはいえ、あまり周囲の方に迷惑をかけないでください!」

「だ、だけど、イダ……こいつは…………」

「「だけど」ではありません! 私たちがどのように世間から見られていても、私たちがその仕返しに同じことをしていいという事はないんですよ?!」

「いや、だ、だから、今コイツに飲ませたのは、一時的に意思疎通を可能にする薬で、あくまでもそこで苦しんでる人間のためで……。(……飲んだらほぼ死ぬけど……)」

「……え?……「アリュテミランの涙」ですか……?そんな高価な物を……って、劇薬じゃないですかッ!ちょっと今「リア……、なんて良い人なんでしょう」とか一瞬でも思った私の純情を返してください!しかも、ミコトに劇薬を飲ませる事に関しての承諾書を書かせていないのでしょう?!」

「だ、だってコイツ、字書けないでしょ……?」

「だからって、なんの説明も無しに、魔法薬師の目の前で人に劇薬を飲ませないでください!しかも「アリュテミランの涙」って他国の間者の、死んでもさして問題のない輩に使う一種の自白剤じゃないですか!」

「で、でもあれ、ちゃんと意思疎通はできる……し……?」


 ここまでリアが、行動を起こす原因は私にある。それは理解できる。


「リアの気持ちは理解します。……ですが、今回は私の不注意で、アンプラである事を露見してしまいました。それ故に貴女がミコトを害そうとするのも理解します。ですが、お願いですから「イダのため」という理由で人の命を絶たないでください……。貴女に罪を被ってほしくないのです」

「……、御心のままに、イニェーダ様」


 生まれた時から傍仕えとして、一緒に過ごしてきた姉のような存在を叱るというのはやはり心が痛む。結果、昔のように敬語をしゃべるようになるリアを見つめる。

 再三にわたり、敬語を使わないで下さいとお願いしてやっと最近、会話が砕けてきたというのに……。


「それと、「アリュテミランの涙」を飲ませて、生きながらえてる以上、ミコトとの意思疎通が叶います。ですから、どうか、敬語を使わないでください」

「……はい。でも、人間風情がイダの事を「イダ」と呼ぶたびに喉元に剣を突き立てたくなる気持ちがある、というのだけは知っておいてほしい」

「わかっています。では、リア。一つお願いがあるのですが」

「なに?」

「解毒剤を作りますので、クフィアーナの木の実を拾ってきてくれませんか?もちろん、地に落ちたものでないといけません」

「え……、あれ、双満月の時しか地面に落ちない……よね……?しかもたしか、地に落ちた実はディアブロの大好物だった気が……」

「えぇ。そうですね。まぁ、地面に落ちても平気で一年くらいは果実のまま残りますから、運が良ければすぐに見つかりますよ」

「……イダそれってかなり無理な注文の気が……」

「でも、無いと解毒剤作れませんし、お願いしますね? リア」


 リア曰く「無敵の笑顔」の前では拒否権は発動できないらしく、リアはしぶしぶ立ち上がり、部屋から出ていった。

 

「……全く。ミコト、もう起きても良いですよ……。起きているのですよね?言葉はわかりますか?」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


(イダさん気づいてたんだ……)


 眼を開き、ゆっくりと起き上がり、ベット下に置いてある洗面器の様な物を取り出し、口腔内に含んでいた飲み物を吐き出す。

 「アリュテミランの涙」と呼ばれた液体を含んだ時、舌を使い喉奥に行かないよう液体を上あごに押し付け、唾液だけ飲み込み、フェリスさんには「飲んだ」と思わせたのだ。

 腕で、口の周りをぬぐうと、イスに腰かけ、朝渡してくれたお茶(?)を差し出してくれるイダさん。素直に受け取り、一口含んで口内をゆすいだ後、洗面器へと出し、二口目から普通に飲み始める。

 死んだふり、をしたわけではない。ただあまりに悪戯がすぎるフェリアさんの行動に悪乗りをしようとした結果だ。渾身とまではいかずとも、フェリアさんには通じて、イダさんに通じない理由がわからなかった。

 

「なんで気づいたんですか?」

「乙女の秘密、という事でいかがでしょう?」


 ふふ、と微笑むイダさんは先ほどみたフェリアさんの幻術の笑顔とは違い、本当に可愛らしい笑顔だった。


「冗談ですよ。朝の会話の時気づいたのですが、ミコトは精霊が見えているのでしょう?会話中不自然に目線が泳ぐ事があったので、視線の先を探すと大抵精霊が居ましたから」

「精霊?」


 いや、妖精のように美しい女性なら目の前に一人いますが、精霊は見たこと無いですね、とは口が裂けても言えず、聞き返すだけで精一杯。


「えぇ。今私の肩に光る球のようなものが見えますよね?」


 言い右手で自分の左肩を指さすイダさん。確かにそこには直径にして一五cmほどだろうか、光り輝く球が浮かんでいた。


「この子が、私が部屋に入った時「ミコトは大丈夫。起きてる」と教えてくれたのです。本来、人間種には精霊が見えないはずなのですが……。ミコトは目が良いのですね」

「どうなんだろ……視力とかは普通だと思うんだけど……」

「どんなに遠くを見通す目を有していても、精霊は見えないんですよ。それと……」


 話をつづける前に一区切りいれ、イダさんは深々と頭を下げてきた。


「リアがミコトに行った事の全てを謝罪します。あの者は私にとっての姉の様な存在です。そんな私にミコトを近づけるというリスクを冒したくなくてこういった行動に出たんだと思います」

「と、とりあえず頭をあげてください。怒ってたりとかはしてませんから。フェリアさんがイダさんの事を大切に思ってるっていうのはさっきの会話で十分理解できましたし」

「お優しい方なのですね、ミコトは」


 顔を上げ、微笑んでくれるイダさん。そして視線を料理へと向け、話を続ける。


「それにしても、なんでこの液体が毒物だと思ったのですか?」


 そう言い、淡い桃色の液体の入った瓶を指さす。


「あくまでも予想です。最初の御粥には生きたままのカエル、次の揚げ物にはバラバラにされたムカデ、ここまで来たら、次は「一品増やしてくる」と思っただけです。まぁ、イダさんじゃないと確信したのは揺すり起こされ、名前を呼ばれた時ですね」


 最初にゆすり起こされた時に名前を呼ばれたが、訂正したはずの「ミコト」が「ミクォト」と伸びていた事だ。次に疑問に思ったのは、「イダ」と名前を呼んだ時。微かに表情が消えた。あれは一瞬、怒りを覚えたのだろう。

 

「なるほど。でも良かったです……。「アリュテミランの涙」は飲み込み、胃液と混ざりあうと反応を起こす劇薬で……下手したら死んでました。正しい使用方法は煮詰めて飴状になった物を舌下に塗るんです。奇しくもミコトの行動が自身の命だけでなく、最善の結果を導き出したわけですね」


 軽く、今いないフェリアさんに対するどす黒い感情が芽生えたのは言うまでもない。


「ミコトは、なにかを調べたり、分析するような職にでも就いておられるのですか?」

「いや、ただの学生だったよ」

「ミコトは将来学者様になるのですか!?」


 興奮した様子で顔を近づけてくる、イダさん。顔近いです。まじで。突然の事で驚きすぐに顔をそらすが、イダさんも冷静を取り戻して自分がした事を失態だと気づいたのだろう、席に座りなおし顔を真っ赤にしうつむいていた。


「いや、あの……。僕が居た世界、地球っていうんだけど……。その地球の、日本っていう国だと、一八歳くらいまでは学校に通うんだよ」

「チキュウにニホンですか……?聞き覚えがないですね……」

「うん、僕の世界にはイダさん達みたいなエルフも居なかったんだ。僕みたいな人間だけの世界だよ。ファンジーなのはゲームや、漫画とかの中だけだったね」


 言って、イダさんの顔を見ると、頬に一筋の涙が走った後があった。表情は完全に固まり、口は少し開き、一粒だった涙が、次々へと溢れ出た。

 

「え!?ご、ごめんなさい、なにか気に障る事言いましたか!?」


 少しまくしたてながら言った言葉で、我に返ったのか、泣いている事に気が付き、逆に慌てるイダさん。


「違うんです!なんでもないです……!」


 ごまかすように微笑みながら、涙を流すその姿を見て、自分の「魔法」を思い出す。落ち着きたい時、余裕を持ちたい時、そんな時に思い出す自分の「魔法」。

 決して、自分が落ち着きたいわけでも、余裕も生じさせたいわけでもない。でも、涙を流すイダの顔はどことなく記憶の中の顔と似ており、気づいたときには肩を抱いていた。


「……大丈夫。大丈夫……」


 イダを抱き寄せ、長い特徴的な耳元にそうつぶやく。最初は僕の奇行に驚いていたのだろう、両手を力なくダランと下げていたが、イダの嗚咽が少しずつ強くなった頃にはイダも背中に手を回してくれていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ