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起章:第三十七幕:雪花祭<アンリージュ>-V

起章:第三十七幕:雪花祭<アンリージュ>-V


「……でっか……」


 それが、最初にアリアーゼ城を見上げた僕の言葉だった。

 何度か遠くから見た事があったし、ある程度の予想はできていたが、大きい事に付け加えて、近づくと土台ともなっている巨大な氷の柱の影響か、かなり寒い。

 ミルフィの為に買っていたという大き目のドレスはサマードレスとでも言うのか、どう見ても夏用にしか見えず、正直震えるくらい寒い。っていうか震えてる。

 その様子を誰か気にかけ、上着でも渡してくれれば良いものを、案内していた騎士達はどうやらそれどころではないらしく、文字通り血眼になって周囲を伺っていた。 


 アプリールについてからというもの、僕を案内していた騎士達は、なぜか慌しく周囲を伺い、「誰か」を探しているようだった。

 僕が聞いても、「騎士様には関係の無い事です!」としか言われず、ミィコ少し寂しいです。


 逆に言えば、騎士達は僕以上に優先すべき事案にぶつかっているようで、当初の予定通り、簡単に騎士達の監視をかいくぐれそうだった。

 現に六人居た騎士も、アプリール内に入ってからはたったの二人しか付いて来ず、アスール村でツチノコの様にもてはやされた僕にその人数はざるにも等しい。


 当初の予定、というのはアプリール内で僕が姿をくらまして、逃げるというもので、アプリール内での失踪となれば責任はニナさん達ではなく、見張っていた騎士達だからだ。

 しかしこうも都合よく、騎士達にとって僕以上に気に掛けないといけない何かがあるのであれば好都合以外の何物でもない。


 二人の騎士の視界が同時に僕を捕らえていない時、簡素な幻術を行使して、己の存在を見えなくさせる。

 

「おい!居ないぞ!」

「なっ!?ちゃんと見てたんだろうな!?」

「お前こそ!」

「冗談じゃないぞ、こんな時に……」


 たったそれだけで、二人の騎士は慌てはじめ、よりいっそう周囲を見わたすがこの間に可能な限り、離れたのはいうまでもない。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 騎士達をまいてからというもの、あるの行動目的を掲げ、アプリール内を散策していた。

 本来なら真っ先に逃げ出すというのが正しいのだろうが、折角来たんだ。


 デートコースの下見をしたい!


 もちろん、イダさんから「行く」という言葉はもらってないが、白の森に戻ってから結果を聞いて、慌てて下見するってのは誘った側としてどうなのか。

 紳士として、確実にエスコートするためにはやはり入念にねった計画で、エスコートせねばなるまいて。


 うんうん、と頷きつつ現実に戻ってみると、そこにはなにやら考えふけっている、男(女装)が立っているわけで、時折男が振り返るあたり、どうやら僕にも需要はあるらしいが、お断りだ。


「まずは服屋だなぁ……」

 

 特に意識せず、大通りから一つ路地を入ったところにあった小さな服屋に入ると、小太りの男店主がドアについていた鈴の音で反応し振り返った。


「ようこそ、いらっしゃい…………」


 店主はなぜか、固まっていた。


「あ、あの……?」

「いや、失敬。その格好では、アプリールを歩くには厳しいでしょう。こちらのドレスなどいかがですか?コレを着て、街を歩けば道行く人々全て貴女を振り返る事でしょう」

「あ、いや、えっと……」

「ご心配されずとも、値引きには応じましょう。何を隠そう、あなた様のお姿が、亡き妻の若い頃に似ておりましてな……。先ほど、入店された時、私めは心打たれたのでございます」


 店を変えるべきだろうか。


「アプリールへ赴かれた理由は、さしずめ雪花祭<アンリージュ>でございましょう、思い出しますな……、私も家内に……」


 僕は若干トリップしていた小太り店主を完全にスルーして、上下セットになった少し暖かそうな衣類を手に取り、奥の試着室へと消えた。

 無論、男物である。


 この世界の衣類は基本、前あわせの物が多いらしく、理由はかぶる様な物だと、エルフ種やフィリッツさんたちラヴィテイルにとってかなり着にくい衣装になるらしく、前あわせのもの、もしくは首周りがゆったりとした衣類が多い。

 今回僕が手に取ったタイプも前あわせのもので、人間種に限った話ではなく多くの種族に対応しているタイプといえる。

 

 着こなし、試着室の中にある鏡で己の姿を確認する。


 うん、どうみても男である。

 念のため、左耳の魔霊銀<ハイ・ミスリル>のピアスを外し、ポケットにしまっておく。これで、何処からどう見ても村人Aである。


 試着室から顔を出して、店主を見ると未だに居もしない僕に対してペチャクチャを喋り続けていた。

 料金を払うときに驚かれるんだろうが、どうしようもない。

  

 ため息と同時に試着室から出て、店主の元へと行こうとすると、唐突に隣の試着室から白い手が伸びてきて、僕の腕をつかんだと思うと、力いっぱいひっぱられ、隣の試着室へと転ぶようにして、入ってしまった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 男なら誰でも良かった。といえば少し語弊があるだろうが、正直誰でも良かった。

 ただアプリールを出るまでの間、恋仲と誤解してもらえるような、そんな相手なら誰でも良い。


 いや、あのリュス以外なら誰でも良かった。


 運良く城から抜け出せたものの、待っていたのは街行く男どもからの必死の求愛だった。

 なんとか振り切り、店主が居眠りしていた間に試着室にもぐりこめたは良いものの、完全に手詰まり感があり、八方塞だった。

 時折、店の前を騎士が走りぬける事があるがこれはきっと、私が城から居なくなったのがわかったのだろう。

 

 これからの事を考えていると、いつのまにか隣の試着室に誰かが入っており、着替えを始めていた。

 時折聞こえる絹ずれの音がなんか少し、変な気持ちになった。

 決して聞き耳を立てていたわけではないが、隣の「客」が試着室を出た際、顔立ちはどこか女っぽく見えたが、体つきや髪型から判断して、恐らく男だろう。

 

 都合よく私の前を通過してくれるようだったから、手を引っ張り、協力をもとめるため耳打ちするつもりが、相手がバランスを崩してそのまま試着室へと倒れ込んできた。

 支えようとしたが、私もめったに纏わないドレスにすそを踏んでいるのに気付けず、後ろにしりもちを付くようにして倒れこんでしまった。

 

 結果、どうなったか。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 僕は、黒派なんです。


 というかこう、タイプなのは年上女性だから、というのもあるんでしょうか。

 求める物は「大人らしさ」であって、「大人しさ」ではないわけで。

 眼前に広がる光景は、二本の脚に挟まれた純白の三角布であって、レースの刺繍が見事としか表現できない一品です。

 この光景をカメラに収め、なんかの鑑定団にお願いすると、いち、じゅう、ひゃく、せん、まん、じゅうまん、くらいまでは行く事間違いないのだろう。

 黒だったら、せんまん、までは行ったはずだ。惜しい、実に惜しい。


「……何か、言いたいことはあるか……?」


 目の前の三角布が喋った。


 言いたいこと?あるに決まってる。「貴方様は何故、黒に染まっていないのですか」だ。

 でも、当然いえる雰囲気ですらなく、心なしか三角布は純白でも、どす黒いオーラを感じ取れて、徐々に濃くなっていく。


 ここは言うしかあるまいて。

 少しでも怒りが収まるのであれば、僕は嬉々として言うよ?


「大変、良いものを頂きました」

「死ね」


 間髪居れず、そう三角布が喋った瞬間。僕は目の前が、望んで止まない真っ黒になった。

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