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起章:第十一幕:「起こさない」と「関わらない」の違い

起章:第十一幕:「起こさない」と「関わらない」の違い


「失礼する!ココに「騎士」殿が入店されたと聞き、助力を求め参った!居られるのであれば、名乗り出ていただきたい!」


 そう声を張り上げ入ってきたのは、人間の男性で三十代後半だろうか、黒髪を短く切りそろえ、右頬には火傷の跡だろうか、少し皮膚が爛れた跡のような物が付いている人だった。

 外で待っている二人とは鎧についている傷から、年季が違う事がうかがえ、所々の装飾も二人に比べ豪華だった。


「おや、ビルクァスさんじゃないですか。どうかしましたか?」

「……すまない……、フィリッツ。ココに「騎士」殿が居ると聞いて来たのだが……」


 カウンターに居たフィリッツさんに名前を呼ばれ、短く謝罪をした後、その場に居た面々を確認するビルクァスさん。何か少し、謝罪の行い方に違和感を感じたが、気のせいだろう。

 フィリッツさんや、ラスティルさん、ガルムさんとは面識があるのだろう、ここに居て一番の不審人物。僕にターゲットを絞る。

 

「えっと……、おそらくこちらに居られるミコト様がその「騎士」様だと思います……。僕たちも今しがた知った所なのですが……」


 そう控えめに告げ、僕を紹介するフィリッツさん。その表情は本当に言っても良いのか、悪いのかと悩んだのだろう、少し苦笑ぎみだった。

 その様子を見て、妹のラスティルさんがすかさずフォローを入れる。


「こちらはアスール村の自警団、団長のビルクァス・アルフィーさんです」


 そう紹介されるが、内心それどころではない。

 このビルクァスさん、さっき僕を視界に納めてから、右腕と両足に魔力を溜めている。フェリアさんに比べると雑だし、遅いが、それでも人間としては十分強い部類なんだろうか?

 心なしか視線も鋭くなり、左腕で腰に吊っていたロングソードの鞘を握る。これは、どう捉えるべきなのだろうか……。

 恐らく本気ではないと思うし、殺気の部類は感じられない。だが表情は鬼気迫るものがあり、表面上だけでも本気なのだと、僕に思わせたいのだろう。

 とどのつまり、推し量られているのだとおもう。


「えっと……、ビルクァス?さん?……」

「すぐに済む……」


 そう短く返され、両足を肩幅ほどだろうか、開き踏み込みの姿勢に入るビルクァスさん。

 次の瞬間、両足に溜めた魔力で突っ込んでくる。引き抜かれた剣は両刃の剣で、綺麗に手入れが施されていた。


(右手に込められた魔力量からも、たぶんこれくらいなら、アルトドルフで防げる……)


 そう判断し、打ち込まれる場所となる、恐らく右肩に右腕に固定されている新しい「力」でビルクァスさんの攻撃を受け止める。

 弾かれた剣の勢いを利用し、二撃目に左脇腹から切り上げるつもりなのだろう、遠心力をも利用するため、回転を加え攻撃に転じさせるビルクァスさん。

 どう防ぐかを判断するよりも先に、左手の親指と中指で素早く指を鳴らす。

 すると、ビルクァスさんの持っていた剣は僕の左脇腹すんでの所で止まる。というか、止めた。ビルクァスさんごと。

 

(この人、たぶん初撃は弾かれるってわかってたな……。二撃目の方が鋭かった)


 二人のやり取りに、完全に気圧されフィリッツさんは唖然として、ラスティルさんは両手を口元に当て、ガルムさんは気にせず料理を食べていた。

 

「驚いた、歳若そうに見えて、なかなかのやり手のようだ……。拘束<バインド>を解いてくれないか?」


 あぁ、ビルクァスさん勘違いしてくれてる。助かった……。

 

 ビルクァスさんの言う拘束<バインド>は、イダさんの得意な事象改変魔法の基礎的な物だ。相手を己の魔力で強引に押しとどめ、身動きを出来なくさせる。無論、自分よりも強者には利かない。

 だが今僕が使ったのは、近くに居た精霊の形を糸状にして、ビルクァスさんに纏わせ幾重にも重ね身動きを封じただけ。魔法なんていう代物じゃない。


 でも、誤解してくれているのならありがたい。


「解いた瞬間また襲ったりしないでくださいね?」

「無論だ」


 指を鳴らし、精霊の姿を元に戻しビルクァスさんを自由にする。

 身体の自由を確認してから、剣を鞘へと戻し、表情を険しくする。


「推し量るような真似をしてすまなかった。もし、可能ならで構わないが、頼みたい事があるのだ……我々と一緒に来て頂けないだろうか?」

「……申し訳ございません。その……連れに、問題を起こすな、と釘を刺されていまして……」


 僕だって命が惜しいです。フェリアさんの拳はガチで殺りに来てるんですよ?


「……村人が森での収穫から帰ってこない。ディアブロなどに襲われた際に打ち上げる照明弾なども確認されていない……どこに居るのかさえわからないんだ……協力してくれ……」


 そう申し訳なさそうに語っているビルクァスさんは何故か、視線をフィリッツさんへと向け、さらにうつむいた。その行動の理由に一番最初に気付いたのは、ラスティルさんだった。


「……まさか、キーナ……ですか?」


 ラスティルさんの言う「キーナ」が誰なのかわからないが、フィリッツさんにとって近しい人物なのだろう。さっきも話題に出ていた気がする。

 

「なっ!?本当ですか、ビルクァスさん!」


 問われ、苦虫をかみ締めた表情で頷くビルクァスさんは、どことなく自分の弱さを嘆いているようにも見えた。


「キーナが森に入って、既に三時間は経っているが一度も時間延長の声がけが門兵にない……」

「時間延長ってまさか……、キーナは赤の森に入ったのですか……?」

「あぁ……。あくまでも森の入口付近で、三人での採取という名目だったらしいが、時間延長に門兵へ一人が向かおうとした際にキーナが居ないことに気付いたらしい……」


 赤の森。たしか、僕たちの家があるのが「白の森」と呼ばれる森で、赤の森はアスール村を挟んで反対側、北側の森だったと思う。以前、解毒剤に使うという名目で、フェリアさんが探し回ったクフィアーナの木の実が成る大樹で生い茂っているらしい。

 クフィアーナの木の実は双満月の日になると、魔力を蓄え己を枝から切り離し、種となる。その木の実はディアブロの好物とされ、双満月の日はクフィアーナの大樹には近づいてはいけないとさえ、言われている。

 

「幸いまだ昼過ぎだが、今夜は恐らく双満月だ……。フィリッツ……すまないが……」

「……わかって、います。ビルクァスさん達は、町を外敵から守るのが仕事であって、攻めるのが仕事ではありませんから……」


 さっきの表情はこれのことか。恐らく、助けに行きたいのはやまやまだが、組織として行動をしている以上、いくつかの制約があるのだろう。

 フィリッツさんも苦笑でごまかしているが、奥歯をかみ締める音が小さく聞こえた。


「……ギルドの方へは正式に依頼として出してはいる……だが、こんな危険な依頼をこなせる人間が村に居ない……」


 険しい表情へと代わり、僕へと向きを変え、頭を深く下げるビルクァスさん。


「頼む!キーナはこの村の住人であり、フィリッツの想い人なんだ!先ほどの私の攻撃を「盾」だけで凌いだ貴殿だ!例えディアブロと接触しても問題ないだろう!?」


 大の大人にココまで頭を下げさせ、なおも「問題を起こさない」という誓いを守るべきか思案していると、意外なところから助け舟が出る。


「ミコト様?ミコト様は「問題を起こさない」と言われているだけで、「問題に関わるな」とは言われていないのではないですか?」


 そういい微笑むラスティルさんは、兄のフィリッツさんを手で指し示す。

 そこにはなみだ目のフィリッツさんが居り、ビルクァスさん同様に頭を下げてきた。


「私には、戦う力がありません……。自らの想い人に馳せ参ずる勇気すらない臆病者です……、ですがキーナを失いたくない……、どうかご助力を……ミコト様」

「わかりました、ですが……いくつか条件があります」


 その言葉に、ビルクァスさんと、フィリッツさんの両名は顔を上げてくれる。


「まず最初に、命の保障は出来ません……。僕もディアブロと対面するとしたら、初めてになります……。知識は持っていますが、それもどこまで役に立つのかわかりません」


 イダさん達と暮らしている白の森と呼ばれる森は比較的温厚な野生動物のみで、ディアブロなど一度も見た事がなかった。

 だが、訓練を積んでいく過程で、様々な知識をイダさんとフェリアさんから教え込まれ、あるていどの対策と予備知識は有している。


「次に、村の中央広場で今から一時半後にある女性と待ち合わせをしています。馬車に乗っていて、金髪の短い髪型です。腰にエクs……ダガーを吊っているので分かると思います。その女性に何があっても僕は「先に家に帰った」と伝えてください」


 とてもじゃないけど、二時間以内に終わるような案件じゃない。先に帰ったと伝え、あとで家につき「道草食ってた」とでも言えば良い。


「それから……、「コレ」の矢を売ってほしいです……」


 そう言い、右腕に着けている「アルトドルフ」を掲げる。

 一見ただのバックラー(小さめの盾)に見えるであろうが、実は違う。もちろん、ビルクァスさんの初撃を防いだように、盾としての用途でも使えるただの「クロスボウ」である。

 手首から、肘までの手甲に固定されたそれは、非展開時は盾としての役割も期待できるが、アルトドルフの最も長所としているのは、「汎用性の高い射撃武器」だった。

 クロスボウに使われるような、ボルトと飛ばせば精密性は上がるだろうが、このアルトドルフの長所は「身の回りの小さい物を矢弾にできる」という物だった。

 しかし、攻撃をはじかれたビルクァスさんだけではなく、その様子を見ていた、うさ耳兄妹もキョトンとしていた。

 

「あの「騎士」殿その右腕に固定されているのは盾では……?」


 そうビルクァスさんが指をさして言うが、どう説明したものかと声を続けると、


「あぁいや、これは――「クロスボウだろう?「騎士」殿」」


 隣でただひたすら料理を食べていたガルムさんが久々に発言する。


「珍しい形をしておるし、見たことも無いが、立派な絡繰りだ……。「騎士」殿、これは誰が作った品だ?」


 作ったのはイダさんで、「劣悪な環境化でも最後まで生存を諦めないために」という願いのもと作ってくれた。弓使いとして恐ろしいのは攻撃手段となる矢の持ち運ぶ量に限界がある事だった。

 それを知っていたイダさんは、「身の周りある物も矢弾に出来る弓」を作ってくれた。


「それは言えません。ですが、これがクロスボウだってよくわかりましたね」


 そう言い、右手の親指を立てながら一回手首を曲げると、閉ざされていた金属の塊は素早く開き横幅八十センチ近くまで大きくなり、弦が張られる。


「ビルクァスの攻撃を弾いた時が盾の音ではなかったからな。ボルトであれば、うちの工房に拠っていけ。最高品質の物を提供してやる」

「ありがとうございます。では最後に一つお願いなのですが……」


 するどい目つきでフィリッツさんを見つめると、フィリッツさんは驚き、つばを飲み込む。


「なにか持ち運べる形の料理を二人前……。僕は道中で食べますが、もう一つはキーナ?さんの分で。お腹減って死にそうなので……」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 アスール村、村の中央には小さな噴水と、多くの露店でにぎわう通りで、ゴミ虫を待っていた。だが時間になっても現れず、帰ってきたら何発で済まそうか考えていると、背後から急に話しかけられた。

 振り向いた先には一人の女性のラヴィテイルが居た。彼女から得られた情報は名前が「ラスティル・アストル」であること。「兎のしっぽ亭」の料理番であること。「ゴミ虫が先に家に帰った事」。

 ため息しか出ない……。なんで私の周りの人は、こうもトラブルを抱え込み、また巻き込まれやすく、それをやすやすと請け負ってしまうのか。イダの傍仕えを始めた時も、毎日行き先が違う主を探し求め奔走していた。

 そして泥だらけになって時として傷だらけになって、弱々しく微笑む主を見つけ、言う。

 怒っているのではない、と。

 躾けたいわけでもない、と。

 心配をかけさせるな、と。

 何かあればどうするのだ、と。

 私を一人にするのか、と。


 また、無為に過ごす日常に私を放り出すのか、と。


 いつのまにか目には涙をため、そうイダに言った事がある。イダは驚き、心配をかけさせた事を一時は詫びてくれるが、数日経つとまた何かしらの問題を抱え飛び出していた。当時の私はどうすれば、「待つ側」の気持ちを知ってもらえるのか、そんな事ばかりを考えていた。

 今はお互いがお互いの事を知り尽くし、「信じている」という形に変わっていったのかもしれないが、今回のこの件。

 確実にアイツは家になど向かっていない。それは、目の前のラヴィテイルの表情からわかる。かといって、何らかの問題を起こしたわけでもないのだろう。アイツがイダとの約束をそう簡単に破るとは考えにくい。

 「起こさない」とは誓ったが、「関わらない」とは誓っていない。さしずめそんなところだろう。本当にため息しか出ない。


 なんで私の「家族」はこうも、お節介なのか。


 とりあえず私のすべき事は、まずは何をしでかすかわからない妹の元へ行き、心配ない事を伝える。

 まぁ、絶対に「助けにいこう!」って言うんだろう。思わず笑みがこぼれる。その様子を見て、ラスティルは首を傾げるが、何でもないと告げる。

 

 騎士として赴いた依頼で、主の手を煩わせるような形にだけはなるなよ、と心の中でそう告げ、ラスティルに別れを告げ、帰路に就く。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

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