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承章:第五十幕:一雫V

 驚愕の顔をしているアガレスもさすがは実戦経験者とでもいうべきか、すぐに思考をきりかえ、周囲に気を配り始めたが、何も起きはせず、またミコトも理由も告げずにこの場から完全に姿を消していた。

 そんなミコトと初めて相対したアガレスは完全にミコトを見失った事でほんの僅かに「笑み」を作る。


「――相変わらず「不器用」だな、アガレス。それと、あの者を捉える事など、私でも無理だったんだ。お前も早々に諦める方が賢明だ」

「しかし、彼が何故我らの姫を攫おうとしたのかを――「良い、アガレス。些末なことだ。それよりも早く、「今日の分」を終わらせてしまおう」


 先ほどから気にはなっていたが、アガレスの背後。彼がその身で守るようにしていた女性。一目見ただけで、「亜人」であることは明確だったが、私が今までに見たことのない種族だった。

 人であれば、耳介が出ているあたりから左右一対の角が生え、後頭部に向け伸びている。肌も所々から皮膚に鱗の様な硬質化した部分も見て取れる。

 極めつけは、先端に行くにつれ細く、最後は三叉に分かれる鱗の尾。「亜人」の見受けるに十分すぎる要素の塊だったが、自分の目で見たことはないが、知識として知っている<ウィンデ>種に類似している点が多い。

 

「アガレス、そちらの方は?」

「――ハッ! この方は――「小娘。我が名を賜りたいのであれば、まずは自らが述べるべきであろう? それに何だ? 頭上から臣下の礼もなく、答えを乞う等、無礼にも程があるぞ」


 言われ、最初に感じたのは圧だ。敵意や害意などではなく、眼前の少女から放たれる、ただの圧。

 それが何なのかは解らなかったが、自然と手に持っていた白宝<アリア>の能力で生み出した剣を解き、足場にしていた氷壁より飛び降りる。


「失礼しました。元、銀旋騎士団団長にして現白枝、アルフィーナ・バルディールと申します。頭上からの直答平にご容赦を」

「良い。許す。……ふむ……」


 アガレスが私に対して行った騎士が行う礼を眼前の女性へと行うと、様々な角度から見つめられる。


「何かございましたか?」

「いやなに、これも……そう、些末なことだ。我が名は――クリスティアだ。――アガレス、先に「部屋」に行っている。急げ」

「――ハッ!」


 そういい女性は静かに歩きだし、特に共もつれずに場内へと入っていく。その様をアガレスと共に完全に見送り静かに顔を上げる。

 出で立ちや言動、上位者たる圧、それに所作。全てが私の知る「亜人」とはかけ離れ、彼女の出生から今までの歩みに興味を惹かれる。


「あの方は、クリスティア様です。……お答えしたい事も多々あるのですが……、アルフィーナ様……。もし可能であれば、いくつか相談したい事がございます。後ほどお時間を頂けませんか?」

「あぁ、私も色々と知りたい事があってな。少しでも情報がほしいのだが、「私」では集められない物の方が多くてな」

「心中お察しいたします。――では、後ほど、使いの者を向かわせます」


 そういいアガレスもクリスティアという女性の後を追い城内へと入っていく。

 最後に完全に彼が視界から消える瞬間、口角が上がり、ほんのわずかに「微笑んでいる」のが解る。


「……本当に、「相変わらず」だな……」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 城内でのやり取りの後、自らがとった宿へ向かいながら、部屋に残してきた旅の仲間、ディーネの事を考えながらも、周囲に意識を向ける。

 街行く人のほとんどが私を視界に捉えると一瞬だけ驚き、視線を逸らす。それが高齢の者となれば違いがあり、驚いたのち、睨みつけるような眼にかわる。

 気づいていないふりを続け、歩みを進めた結果、水鱗亭へとたどり着く。


「……あいつ、少しは良くなっていると良いんだがな……」


 自然とこぼれた言葉と共に、背後に「何か」がふってきて、直ぐに戦闘態勢へと移行しようとするが、「独特の空間」になっている事に気づき、ため息一つ。

 そして背後の空間から、聞きなれた声が一つ。


「アルフィーナ」

「ッ――何度言えばいいんだ……、少しは「人間」らしい所作で近づいてくれ……」

「その話は後だ。聞きたいことがある」

「少しは私の話も聞き入れろ……。それで、何だと言うんだ」


 振り返った先には先ほどまでアガレスと相対していた、ミコトが立ち、考えるようにして言葉を紡ぐ。


「……「この世界」では「二つの人格」、って言えば伝わるのかな……。急に性格や言葉遣いが変わったり……まるで、外見だけ同じで中身が違う、ような症例を持つ人の事を何というんだ?」


 本人は特に意識していないのだろうが、自然と「この世界」と言っているあたり、本当にこの世界で生を受けた存在ではないことの証明なのだろう。

 そして問われた内容としては、「この世界」で生きていれば、自然と耳にする情報であり、ましてや彼ほどの年齢の者が「知らないはずはない」といった内容だった。 


「……「多命障害」という精神疾患が該当するかもしれないな。生まれ育った環境や、過度のストレスから別の人格を形成し、自らを守ろうとする自衛本能からくる症例だ。幼いうちから隔離して育てられる等の理由から発症するリスクは高くなると聞く」

「その多命障害――。さっき会ったクリスティアと呼ばれていた女性に当てはまるか?」


 彼なりに何かしらの確信を得ての問いだとは思うが、それに正確な返答が出来ない現状では濁すほかない。 


「……すまない。この都市へ来るときにも伝えたが、我ら銀旋がこの都市について語れることは本当に何もないんだ……。私もクリスティアという女性、アガレスの転任、青枝の行方不明。全て今日知ったことだよ……何か気になる事でもあったのか?」

「確証はない、けど……嫌な予感がする。城を見上げた時は距離もあったから解らなかった、と思いたいんだけど……。敷地内に入り、落ちてくる彼女を抱きとめた時に、ひどく焦燥感にかられた……。あの人は一体何なんだ?」

「……中に入ろう。あまり大っぴらに話を詰める事でもないし、「私」が居る以上、この街では常に「耳」や「眼」があると思ったほうが良い」

「わかった。――そういえば」


 続けて「ディーネの体調は?」とでも確認したかったのだろうが、続けて何かを言おうとするが、彼の言葉が止まり、「答え」が我々の前の飛び出した。


「おかえりなさいませ、ご主人様♪ お嬢様♪」


 フリルをあしらったカチューシャに、何やらヒラヒラと無駄に布地を付き足したかのような女給の服を着たディーネが飛び出し、二人して言葉を失う。


 一瞬にして疲れた吹き飛んだ、なんていう事もなく、二人して揃って重い溜息をするだけだ。

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