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承章:第四十六幕:一雫

承章:第四十六幕:一雫


「さて、まずは拠点ともなる宿でも取るか。ミコトも「ソレ」降ろしたいだろう?」

「否定はしない……」


 ティルノ・クルンについてから、都市内に入るための検問所を通過し、青宝<シーラ>の魔力により浮力を得ている人口島へと踏み入った。

 街並みは中央に聳え立つ白亜色の城、ティルフィリス城以外の建物は大きくても三階建ての白くところどころ気泡の混じったレンガで建てられており、どの通りにも小さいゴンドラが十分に行き来できる程の水路が用意されている。

 ゴンドラには荷運びを行っている者も居れば、観光客を乗せている者、果物や飲み物を積んで行き交う人に売っている者と様々だ。

 行ったことはないが、旅行雑誌で見たヴェネツィアのような風景で、街並みは独特ながらも、風に乗る磯の香と陽気な人の声に耳を傾けると、自然と楽しくなる。

 

 耳元から、ゾンビのうめき声みたいなのが聞こえなければ、だ。


「ぅー……ぁ”ー……」


 船に乗って暫くは大丈夫だったはずなのに、急に柵にもたれかかり、


「気持ち悪い、です……」


 と、一言残し、完全に船酔いにやられ、船から降り揺れがなくなった今でも酔いが残っているようで、僕が背負っている人物。

 ディーネだ。

 初めての経験だったよ。顔がヴェールで隠れてて、全く見えないのに見ただけで「あ、青い顔してるわ」とか思ったの。


「す、すみィ……ま”ぜん……、ミコッド様の、お手を……煩わせて”ェ……」


 耳元でえづきながら話さないでほしい……。

 今にも吐きそうな人を背負っている身としては、いつわが身に災厄が降り注ぐか気が気でないわけで。

 背中に感じる柔らかい二つの何かの感触を楽しむよりも、背中のダムがいつ決壊するのか解らなくて、恐怖しか感じない。


「……宿の前に、薬屋にでも行くか?今更飲んでも変わらんかもしれないが、船酔いに効く物があるかもしれん」

「いや……、背負っている身から言わせてもらえれば先に宿で降ろしたい。早くこの恐怖から解放されたい」

「……まぁ、そう言うな。ディーネだって宿に残されるよりも、頼りになるご主人様に背負われて、頼もしさに身を震わせているかもしれないだろう?」

「どちらかと言うと、震えている、というか痙攣しているのは胃だろうね……」

「ぁ”の……、どっち”でもォイイので、ハヤグ……」


 背中のゾンビはいろいろと限界に近い。


「まぁそう言うな。大事なことだぞ?あぁ、そうだミコト。昼食は何が良いだろうか?ここは各都市からの交易拠点にもなっているからな、様々な食材が揃うから食文化も様々だぞ。一番はやはりトゥスメと一緒に煮たてた海鮮スープだろうな。あの匂いは私も大好きだ」

「ぅ”ッ」


 確信犯だな。日頃の恨みを今晴らそうとしているようにしか見えないが、ディーネに追い打ちをかけるアルフィーナは実に楽し気だ。


「ハァ……。まずは宿屋に行って、ディーネを降ろしたい。近くにたらいでも置いておけば、「もしも」の時でも大丈夫だろう」

「詰まらんな。もう少し余裕がありそうだぞ?」

「元気になった後の事を考えてほしい。それを止める僕の身も。……どちらかと言えば、今は「僕の身」も案じてほしい」

「しょうがないな……」


 そういい、アルフィーナが歩き出すと、僕もそれに続くが、しばらく歩いてアルフィーナがふと振り返ると、


「宿までの移動は船で行くか?」

「歩きで」

「あル”いで、ください……」


 僕とゾンビからの返事に苦笑で肩をすくめ、再び歩き出すアルフィーナ。

 解り切った事を聞いてくるほど、出会った当初の堅苦しさはなくなったが、今は前のまじめな君に戻ってほしいよ。




<………ッ!!>




「ん?」

「どうかしたか?ミコト」

「あ、いや、今何か……、聞こえた気がする」


 そういうと、アルフィーナが周囲を伺うが、波の音と、周囲の人の声しか拾えなかったのだろう、首をかしげるだけだ。


「何を言われたのか、までは聞き取れなかった、けど……何か焦っている様な気配がした」

「……、ここに来る前にも話だろうが、私たち銀旋は長らくティルノ・クルンに関われていなかったからな……。青宝<シーラ>の状況が解らない以上、頼りになるのはお前だよ。悪いが、ディーネを宿に降ろしたら、少し街を見て回ろう」

「あぁ、構わない」


 そう返し、背中のゾンビが力なく背負われているので、位置を整えるという名目で背中の柔らかい感触の位置を楽しむために一度軽く浮かし、背負いなおす、と


 なぜか力なく垂れていたゾンビの右手が急に僕の右肩を掴み、凄い握力で締め上げ始めた。

 そして何故か、左手で僕の服の襟をひっぱり、何かの「空間」を作り出し、いやな予感がして、声に出そうとするまえに、


「げん、カい、でず!――――――――」


 あぁ。


 今日は空が綺麗だ。 


 陽の光もほんのり暖かい。


 まぁ、陽光よりも暖かく、ぬめりのある何かが背を伝っていくのは、全身の毛が逆立ったのは言うまでもない。


白兎「ッ!?」

灰狼「ッ!!ど、どうしたんですか?ラスティルさん。急にビクッとして……」

白兎「い、今何か……、ビビッと来た……」

灰狼「ビビッと、ですか……?」

白兎「な、何かこう、不幸な仲間が増えたような、……なんでだろう?」

灰狼「さ、さぁ……」

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