表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/109

起章:第一幕:尊い日常と、儚い非日常の邂逅

 初投稿となります。稚拙な文で、突っ込みどころも満載でしょう。

 それでも、楽しんでいただけるのであれば、幸いです。

 まだ、プロローグとも言えるものしか書いていませんが、みなさんが楽しんで読めるような物を提供できればと思っています。よろしくお願いします。

※誤字、脱字はこっそり教えてください(´;ω;`)

※今回、R15描写は入れていないのですが、いずれ入りますので、今からチェックが入っています

起章:第一幕:尊い日常と、儚い非日常の邂逅



 自分の中にある一番古い記憶は何か――。時々、そんな事を考える。あれでもない、これでもない、と考え抜いていく先にいつも決まって行きあたる記憶。

 顔は鮮明に思い出せないが、女性が見下ろすようにして微笑みながら泣いている。涙は流していても、目元は弓形に弧を描き、微笑んでいる。

 その記憶を思い出すと、いつも「大丈夫。大丈夫」となぜか思えてしまう。どんな時でも、落着きを取り戻せ、余裕が生じる自分にだけ効果のあるような魔法。自分の事を知らない人に話せば、きっと笑われるであろう内容で、「尊」という人物がどういう人間なのか知っている人に言わせれば、

 きっと答えは決まって「お前の母さんなんじゃないの?」と言われるんだと思う。「母」どころか、「父」さえも知らない人間から言わせれば、それはなんとも安心し、安らげる記憶であり、同時にひどく孤独になる。そして、それを補うかのように、その古い記憶から今までの記憶を辿ると、多くの笑顔の中で自分が育ってきた事を再確認できる。


「……大丈夫。大丈夫……」


 そう口に出る時もある。ていうか、今出た。


 そして眼をゆっくり開き、目標を見据える。黒と白が重なる丸い的。二十八メートル先の的に向け、矢を番え、弦を引く。息を止め、再度目標を見据える。左手の震えを殺し、聞こえないはずの小さな風の音さえも拾おうと、聴覚を研ぎ澄ませる。

 風の音が止んだのを確認し、ゆっくりと弦を指から離す。番えられた矢は放たれ、目標に向け飛翔し、的の中央を深く射貫く。

弓を下げ、息をゆっくりと吐く、そして恒例の、


『的心!』

「声が小さいぞ、一年!」

『はい!』

「もう一回だ!」

『的心!』


 他所の弓道場ではおそらく考えられないだろうが、なぜかうちの弓道部はこれが常だ。射手が的の中央を射貫くと、入ったばかりの一年生は声を揃え、「的心てきしん」と声をあげ称える。自分の中では弓道は「静」の運動部であって、スポ魂とは無縁だと思っているが、なぜかほかのみんなは違うらしい。場を離れ、掛け棚に弓をしまい、手荷物をまとめ、早々に道場を後にし、帰ってシャワーでも浴びよう。


「相変わらずだね、シバ君」

「その呼び方やめてって言ってるじゃん。なんか柴犬みたいで嫌」

「飼ってあげようか?ほら、お手」

「やらないし。それとうちの寮、ペット禁止だよ。誰だったかな、捨て猫拾って来て寮母に怒られて三日間おかず一品減った人」

「ワ、ワタシジャ、ナイシ?」

「布部だよ。ったく。僕まで被害にあいかけたし。それで今日は何?」


 弓を片付ける手を止めず、話をする。幼馴染、というか幼い頃から一緒に生活していた妹のような存在。身長は150そこそこで、長い髪を二つに結い、たらしている。目に力があるという印象が強いがなぜか嘘をつくときは必ず目をそらす。クラスメイトであり、同じ「家」で育ち、同じ寮で生活している。片付けの手を止め、振り返ると苗字を呼んだ事によるものか、少し不機嫌そうな表情になっていた。


「紘で良いのに。もう家族みたいなもんじゃん?」

「わかってるけど、それは寮内でなら考えるよ。今は学校だし、誤解されたくない」

「まぁ、一番は「紘お姉ちゃん」かな~?」

「寝言は寝てから、言ってくださいね?布部さん?」

「や、やめて、シバ君の笑顔マジ怖いから」


 失礼な。これでも天使の笑顔と商店街のおばちゃん達からもてはやされているというのに。


「えと、話戻すけど、今日ちょっと用事で帰りが遅れるから、食事取り置きしといてくれないかな?」

「急に決まった感じ?」

「うん。お願いできないかな?」

「いいよ。いつもみたいに部屋の冷蔵庫に入れとくから、持って行って」

「ありがと。さすが弟だね」


 布部と同じ寮に住んでいるためか、お互いに急用が入ったりすると、食事の取り置き依頼を出し合う事がある。特に布部の様な成績優秀組はアルバイトの許可がおりるため、主にそっちの理由で基本取り置きしているが、時々急なシフト変更などがあると、今みたいに食事の取り置きを依頼される。


「それじゃ、先帰るから。明日の朝練早いから、寝てるかもしれないけど気にしないでね」

「あれ、弟発言はスルーですか?お姉さん泣きますよ?」

「あと二百年経ったら考える」

「それもう、御婆ちゃん通り越してるよねっ!?」


 などと軽口をたたきつつ、道場を後にする。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 校門を出てしばらく歩くと、駅に着く。これも一年以上通えば、見慣れる風景だった。道中の草木が四季に応じ色を変えるだけで、ほかは特にあまり変化はない。毎日が新しい発見に包まれている、というのは通い始めて三日で終わった。

 学校、喫茶店、ファミレス、コンビニ、住宅、駅、そして寮。寮から学校へ、学校から寮へ。時々、友達と遊びに出る事はあるけど、なぜか色濃い物とと思えない。なんのために学び、なんのために食べ、なんのために笑い、なんのために日々を過ごすのか、それを見いだせない。

 目的もなく日々を過ごし、周りの皆が将来の夢や、得たい物のために努力している姿を見るたびに劣等感を抱いてしまう。それらを目の当たりにし理解しても、自ら何かをしようという考えには至れず、同じ日々を過ごしている。


「ハァ……」


 吐いた息は、冬の寒さゆえに白くなり、一瞬で姿を消す。駅のベンチに腰を下ろすと、制服のズボンを通り越し、臀部に冷たさが伝わる。

 この一瞬が苦手なのだが、電車に乗った時の座席から感じられる温さを堪能するためには必須のイベント。特に何をするでもなく、電車が来るのを待ち、部活の疲労度からか少し睡魔に襲われる。


(眠い……)


 睡魔に抗うため、少し空を見上げると、雪は降らずとも雲が広がり、ほんの少しだけ心が滅入る。

 視線を戻し、時計を確認すると、まだ十分近く待たないと電車が来ない。


「少し寝るかな……」


 ベンチに背を深く預け、目をつむろうとした瞬間異変に気付いた。

 さっきまで誰もいなかったのにいつのまにか、ホームに人が立っていた。それ自体は至極普通の事なのに、どうみても異質ないで立ちで。フード付きの純白のローブを羽織り、所々に金の装飾が施され、知識の無い僕でも高級な品というのが一目でわかる。

 顔が見えたわけではない。肩幅や、身体の凹凸から見ての判断で、恐らく男性。ただ、最も異質だと思えたのは、彼の背後に見える渦巻く中心部が黒く塗りつぶされた空間に穿たれた穴だった。

 逃げた方が良い、と直感で理解できても、なぜか足が根を下ろしたかのように動かなかった。ローブの男性は少し辺りを見渡した後、僕に気づきゆっくりと近づいてくる。

 お互いの手を伸ばせば、触れられる位置に来ると止まり、再度周囲を伺う。ある程度明るい位置に来ているのに、なぜかフードの中は見えず、さらに畏怖を覚える。


「……怖がらなくて良い。危害を加えるつもりはない。逃げないと誓うのなら解いてやる」


 恐怖よりも好奇心が勝った、といえば聞こえはいいが内心かなり怖い。だけど、それ以上に気になった。目の前の男性が、あの空間に穿たれた穴が、進むことをあきらめたホームの時計の秒針が。

 小さく頷きを目の前の男性に見せると、許しを得たからか、足が地面から上げる事が出来た。目の前の男性をみつめ、好奇心六割、恐怖心四割といった表情で見つめていると、沈黙の後ゆっくりと口を開いた。


「……君。退屈だろう。今の世界が」

「え?」

「……退屈だろう。この世界が。意味がないと思っているんだろう。今の生き方が。……私は、君に生きがいを与え、生きる意味を与える事ができる」


 言いつつ、ゆっくりと左手を差し出してくる。差し出された五指全てに、指輪をはめており、手の甲には大小無数の傷が刻まれていた。顔が見えない分、年齢がわからないが、手の大きさや、肌の張り、声音から自分の倍は年を得ている気がする。


「……行きたいと思うのであれば、私の手をつかめ。連れていってやる。君の新天地へ。冒険の舞台へ、そして――、君が得たいと心より欲している君自身の……」

「行く――」


 最後まで言わせたくなかった。

 知ってるからだ。自分の生き方が味気なく感じる理由、退屈な理由。他人の、しかもつい今しがた出会ったばかりの人物に言われて内心、「子供だな」と思いたくないし、思われたくないから。ゆっくりと差し出された手を握り返そうと手を差し出そうとすると、


「フッ――、アハハハハハハ!子供だな!君は」


 笑われ、心の中を読まれたかのように声高らかに言われ、そして左手をつかまれた。

 電気が走ったかのように腕が痺れ、痛みから目をつむった瞬間、ベンチから転げ落ちた。

 いや、正確にはベンチが消え、地面が消え、支えとなるものが無くなり、重力に逆らえないようにただただ沈んでいった。


 痛みになれ、目を開いた時にはだだっ広い森が目の前に広がっていた。

 周囲に人工の明かりなど無く、月明かり照らされて浮かび上がる森しか視界におさめられなかった。ていうか、未だに重力に逆らえず落下をし続けていた。

 森へ、木へ、地面へ。遥か上空から。パラシュートの類なし。


「ええええええええええええええええええええええええええ?!」


 そして僕は、尊い日常に別れを告げ、儚い非日常へと飛ばされた。いや、落とされた。





喜んで頂ければ幸いです(n*´ω`*n)

ブクマ、コメント、評価、全て励みになります(∩´∀`)∩

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ