第002話 荷物持ちの日常
「すみません、荷物持ちの依頼はありますか?」
「はい、ちょうどギルバートさんのパーティーが依頼失敗の賠償として新人教育の依頼を受けているのでそこに参加させてもらいましょう。ギルバートさん新人さん見つかりましたよ」
「おっ、ちょうど良かった。Cランクパーティー新緑の風のリーダー、ギルバートだ、よろしくな」
「ライルです。昨日、登録したばかりの、Gランクの荷物持ちです。よろしくお願いします」
「荷物持ちか、なら教えること少なくて楽だな。じゃあこれから一週間よろしくな」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
教えること少なくて楽だなと言ってたが、ギルバートさんのパーティーは、いろいろなことを教えてくれた。
1日目は罠の種類と見分け方だ。落とし穴、毒矢、ギロチン、落石、ガス、転移、警報、召喚などの罠の見分け方と解除の仕方を教わった。他にもマッピングの仕方を教わった。
2日目はモンスターの解体だった。とにかくひたすら解体した。荷物持ちなのに持ちきれず、ギルバートさんたちの持ってるマジックバッグのお世話になった。情けない。
3日目は受け流しの特訓だった。棍棒持ちのゴブリンの攻撃をひたすら受け流す。受け流せずにダメージを食らっても回復してくれる。ひたすら、受け流す、受け流す、受け流す…
4日目も受け流しの特訓だった。今度は受け流しにくいブラックウルフの攻撃だ。今日もひたすら受け流す、今度は自分だけじゃなくブラックウルフにもたまにダメージが入るので両方とも回復しながら行った。ひたすら、受け流す、受け流す、受け流す…
5日目も受け流しの特訓だ。荷物持ちのはずなのになんでだろう。今回は棍棒持ちゴブリンに四方を囲まれての特訓だ。なんでも、四方からの敵を対処できれば敵が何匹相手でも大丈夫になるそうだ。今日もひたすら、受け流す、受け流す、受け流す…
6日目もやっぱり受け流しの特訓だ。ブラックウルフ4体が相手だ。今日もひたすら、受け流す、受け流す、受け流す…
7日目は僕を中心にモンスターの討伐だ。今までの受け流しの特訓のお陰で敵の動きがよく分かる。受け流しては切りつけを繰り返していたら、カウンターも交えてみろと言われた。カウンターも受け流しの特訓のお陰で簡単に決まり、討伐速度が上がった。
そうこうしながら、進んでいると、1日目に罠について教えてくれていたステファンさんが声を出した。
「ライル、あそこにある罠がわかるか?」
「? うーん、よくわかりません、確かに何かある感じはしますが…」
「よし、もう少し近づいて確認してみろ」
「はい」
慎重に罠の有りそうなところまで近づく。
「ストップ! そこで止まれ。床の継ぎ目の四隅を見てみろ」
「あ、何か文様が刻まれています」
「それが罠の目印だ。これはレベルリセットの罠だな」
「レベルリセットですか? どんな罠なんですか?」
「簡単に言うと赤ちゃんに戻ってしまう罠だな。レベルが1になり全てのステータスが2になり、覚えていたスキルも全部失う。他にも似たような罠でレベルダウンと言うものもある。これは、徐々にレベルが落ちていくものだ。気づかないと両方とも致命的な危機に陥る罠だ。覚えておけ」
「あそこにある宝箱、ぐるりとレベルリセットで囲まれてるから取れないですね。残念だなあ」
「欲に負けて取りに行くと、モンスターに囲まれて死んでしまうだけだ。迷宮のモンスターはこの類いの罠だけは効かないからな。いや、よく見ろ。少し先は文様が違うだろ。あれがレベルダウンの罠だ。こりゃ悪質だな。あの宝箱を取りに行こうとするとレベルリセットでレベル1にされ、さらに、レベルダウンでレベル0。つまり死亡することになるわけだ。これで罠は一通り教えられたかな。レベルリセットとレベルダウンは解除不能で刻まれてる文様が少しだけ違うことだけ覚えておいてくれ」
「ありがとうございます」
「じゃあ、今日はそろそろ街に戻るか。ライルの歓迎会だ」
ギルバートさんがそう言った。
「歓迎会ですか?」
「ああ、そうだ、あの厳しい訓練に耐えたのはライルが初めてだ、荷物持ちなのによく頑張った。俺のカンではお前はきっと将来大物に成るぞ。今のうちに恩を売っておいたほういいと思うのは当然のことだろ」
「ありがとうございます」
「ステータスとスキルがかなり上がってると思うから、新たなジョブが開放されてると思うぜ。街に帰ったら確認しろよ」
「はい、そうします。」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
その日の歓迎会にて
「ギルバートさん、失礼な質問かもしれませんが、どんな依頼失敗したんですか? ギルバートさんたちはヘマをするようなパーティーじゃないのに不思議だなと思って」
「ギルドの策略に乗せられたってやつさ。レアボスの極レアドロップの納品の依頼だったんだ」
「ギルドの策略に乗せられたっていうのはどういう意味ですか?」
「その依頼はな、期限ありの常時依頼なんだ。そして、失敗の賠償が新人教育一週間。厄介なことに依頼通さずに納品すると買値が十万分の1になる上、ギルド通さずに売買すると売買したもの両者が死罪になるって言うヤバいものなんだ」
「なんですか、その物騒なものは、なんか危険な薬みたいですけど」
「逆だよ非常に有用な薬、神薬ソーマがその正体だよ」
「神薬ソーマって、あらゆる病を治し、部位欠損すらも完全に治すと言われている伝説の霊薬ですよね。そんなもの本当にドロップするんですか?」
「ドロップするみたいだぜ。年に1回くらいのペースでドロップしてるらしい。まあ、もちろん依頼通してないときにドロップしたものばかりだけどな。100年ほど前に依頼通して納品したやつがいて、100億ゴールド手に入れて一生遊んで暮らしたらしいぜ」
「ひゃっ100億ゴールドですか、そりゃあ夢見たくなりますよね。あれっ、でもドロップしてから依頼受けて、納品すればいいんじゃないですか?」
「そっか、ライルは今回の依頼が初依頼だったな。知らなくて当然か。ギルドカードにはな、討伐したモンスターとそのドロップ品が記録されるんだ。だから、後出しで依頼受けてもバレて十万分の1の値段でしか買い取ってくれないんだよ。だから、この依頼はギルドの策略なんだ。まあ、こうでもしないと俺達の依頼料払えなくなるだろうし、新人教育をする冒険者もいなくなってしまうだろうからな」
「そう簡単に一攫千金はできないってことですね」
「そうでもないぜ、やり方は秘密だけど、レアボスの出る法則を見つけてな、レアボスに合う確率は100%なんだ。だから、通常ドロップのエリクサーだけでも結構稼げたぜ」
「そうなんですね、迷宮って色々不思議ですね」
「ああ、だから冒険者はやめられないんだ」
それから、色々冒険者のいろはを聞きながら歓迎会は進み、お開きとなった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そして、1週間ぶりにステータスを確認した。
名前:ライル
種族:ヒューマン
性別:♂
職業:荷物持ち
Lv.20
HP:240/240
MP:240/240
STR:58
VIT:58
INT:58
MND:58
AGI:58
LUC:57
スキルポイント:56
ギフトスキル:<能力減少無効Lv.->
ジョブスキル:<アイテムボックスLv.1(0/1000)>
スキル:剣術Lv.8(12/90)、受け流しLv.7(9/80)、カウンターLv.3(15/40)
罠察知Lv.5(16/60)、罠解除Lv.3(12/40)マッピングLv.5(16/60)
解体術Lv.1(5/40)、料理Lv.6(18/70)、生活魔法Lv.-
剣術がLv.8に新たに、受け流しLv.7、カウンターLv.3を覚えてるし、解体が解体術に上がってる。これは、ギルバートさんの行ったとおりジョブチェンジできるかも。スキルポイントは無職のときは初期値が5ポイントで、レベルアップごとに1ポイント、10の倍数ごとに10ポイント与えられるけど、荷物持ちはどうやらその2倍のようだ。レベル上がりにくい代わりの補填かな?
それにしても、アイテムボックスは常に満杯の状態だったのにひとつも熟練度上がってないなあ。荷物持ちが最下位職って言われるだけあるよ。
それも今日で終わりだな、明日はアイテムボックスの中身売り払って、ジョブチェンジしよう。
おやすみなさい。