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主導権争い

 オーキデ共和国 最前線(王国首都最終防衛線) オーキデ騎兵軍団司令部

 その頃、件の両軍団長は――長い会議で激論を交わしていた。戦場の地図が敷かれているテーブルを挟んで……。

「ここは、我々狙撃軍団が攻勢をかけて、最終防衛線に穴をこじ開ける!!

 その空いた部分を同志ら騎兵軍団が中央突破すればよいではないか!?

 この作戦のどこに不備があるというのだ!?」

 オーキデ解放狙撃軍団軍団長シルヴェール・エーヌ(Sylvere Heine)は興奮の余り、思わずテーブルに身を乗り出した。

 今の彼の目と鼻の先には、オーキデ解放騎兵軍団軍団長アンリ=フランシス・レスコー(Henri-Francois Lescot)がいる。

 両者とも、三十路の若い将軍だ。

「同志エーヌこそ、我々騎兵軍団が迂回して後方から前線を崩す戦術に異論があるようだな!その異論こそ聞きたいものだ!」

 すまし顔で持論を崩さないレスコー。エーヌが自身の幕僚と共にこの司令部を訪れてから、ずっとこの顔のまま。「もう勝った!!」と言わんばかりだ。

 悪く言えば、彼からは危機感がまるで感じられないのだ。

 生真面目なエーヌは、彼のこの態度に苛立ちを重ね続けている。

――今の我々の兵站は伸び切り、(ろく)な拠点も付近に無い。対して、王国は首都を防衛すればいいから、兵站は短くて事足りる。このことから、現状不利なっているのが我々だと気付かないのか!?

 しかし、彼はこの事を言えない。言えば、隣にいる政治委員の口から上層部に伝って、彼は粛清される可能性があるからだ。

 それほどまでに、オーキデ共和国は恐怖政治を断行している。その国は指揮権を一時的に合同解放軍に委任しているとはいえ、現地オーキデの両軍団はその恐怖から逃れられない。

 (もっと)も、その政治を元首たる大統領コワニェが“悪意”ではなく、“善意”でやってくれるのだから、笑うに笑えない。

 また仮に上層部に伝わらなくても、レスコーを含めた騎兵軍団の将兵から「臆病だな!!」と失笑を買ってしまうことになる。

――盗賊上がり共に笑われてたまるものか!!と、腹をドス黒く染めるエーヌ。

 実はレスコーは、オーキデ王国の馬賊達の頂点に君臨する馬賊。さらに彼の配下のオーキデ解放騎兵軍団も、彼が率いていた馬賊連合をまるまる組織替えしたものに過ぎないのだ。

 しかも、そいつら今でも何一つ変わってない。開戦直後から、パ連とオーキデ共和国と手を組んだと思えば、『オーキデ解放騎兵軍団』として、“革命”の名の下に合法的に略奪を続けているのだ。

 “革命”のために邁進(まいしん)している真面目で善良(?)なエーヌが、彼らを嫌うことは無理もない事であった。

 反対にレスコーも、馬鹿真面目に“革命”を進めるエーヌに鼻白んでいる。そもそも彼は“革命”そのものにあまり興味が無いのだ。

――別に、俺達(騎兵軍団)は好きに生きれば(略奪できれば)それでいんだけどなぁ……。

 これらがエーヌとレスコーの仲が“非常”に険悪である理由であった。

 分かりやすい例えを用いれば、両者は“水と油”。生真面目な優等苦学生と、校内一の不良は滅多に交わるはずがないのだ。

 とはいえ、今は戦時中。一応、味方同士なのだから、両者はお互いの関係を“同志”というメッキで装っている。

 だが今夜は、そのメッキがはがれる危険を大いに秘めている……。

「いいだろう!!先に言ってやる!!」

 エーヌはこの言葉と共に、持論を展開し始める。

「今この前線にいる自軍は、狙撃軍団と騎兵軍団の二個軍団しかいない!!」

 エーヌの幕僚の一人が地図上の最前線沿いに二つの赤い駒を置いた。

 小銃を装備した歩兵をかたどった駒が狙撃軍団で、馬をかたどった駒が騎兵軍団を表している。

「対して、王国軍はこの前線だけでも三個軍団を有している!!」

 同じく、幕僚の一人が地図上に、赤い駒々で最前線を挟むように、三つの青い駒を置いてみせた。

 歩兵をかたどった二つの駒が王国側の歩兵軍団を、馬をかたどった駒が王国側の騎兵軍団を表している。

 ちょうど赤いに二つの駒と青い三つの駒が、色単位でお互いを睨み合っているような場面(シーン)ができた。

 この場面(シーン)とできたかと思えば――エーヌがテーブルを“ドン!!”と叩いたではないか!!

 これには両軍団の幕僚たちも、若干(おのの)いた。エーヌの気迫に()されたようだ……。

 一方、レスコーは死んだ目と、ポカンと開いた口で平静を保っていた。エーヌの興奮についていけないようだ……。

 おまけに叩かれた拍子に、地図上にある全ての駒が揺れ、そのなかの赤い騎兵の駒だけが倒れてしまった。これにはレスコーを含めた騎兵軍団の首脳部全員が、不快感と悪い予感を覚えてしまった。

 ――何か、不吉だ……!!

 そして、エーヌがレスコーに狙いをつけて――

「これを見て、我々が寡兵であることは一目瞭然!!常識的に考えれば、我々は戦力を集中して運用すべきなのだ!!」と、持論を締めくくった。

 この直後に、レスコーも負けじと持論を展開し始める。

「同志エーヌ!!だからこそ、騎兵による迂回策が必要なのだ!!」

 そう言いながら、彼は自軍の赤い騎兵の駒を掴むと――

「いいか!!騎兵の基本戦術は、自身の機動力で敵の弱い部分や隙を突くことだ!!」と、その駒を青い駒々の後ろ側にやった。

 これで、王国の三個軍団を後方から襲うような形にできた。

 だが、そんな形ができたと思いきや、レスコーは先の赤い駒を元の位置に浮かせたまま戻して――

「だが情報によると、王国の三個軍団の防御態勢は整って、隙も見せていないそうだ!!おまけに、そいつらにも騎兵軍団が混じっている!!

 こんな奴らに向かって、“正面からぶつかっていく”なぞ、騎兵の長所をわざわざ殺すようなもんだ!!

 騎兵軍団の指揮官として、こんな作戦は認められん!!」と、掴んでままの駒を勢いよくテーブルに叩きつけて置いた!!

 またも揺れるテーブル。そして――今度は赤い狙撃軍団の駒だけが倒れてしまったではないか!!意図されたものだろうか……。

 その倒れた駒を不快そうに見つめたエーヌ。平静こそ保ってはいるが、内心では非常にイライラしている。

 彼は「ふう……」と一呼吸した後に、倒れてしまった駒を元通りに立て直しながら、レスコーに訊いてみる。

「では、どうするのというだ!?」

「同志ら狙撃軍団が、王国の三個軍団をひきつけている間に、我々騎兵軍団が後方から強襲する!!」

「それでは――我々狙撃軍団が『囮になれ!!』と!?」

「そういうことだ!!少なくとも、同志の策よりは成功する見込みがある!!」

 このレスコーの言葉に、平静を保ち続けていたエーヌは興奮のあまり――

「電撃戦を仕掛ければ、必ず成功できる!!」と思わず身を乗り出した。

 それにも係わらず、レスコーは平静を保ち続ける。その目はどこか冷めきってしまっている……。

「それは機甲軍団と航空師団がいてくれたからだろう!!だが、今の両部隊は別行動で手いっぱいだ!!とても、我々に構う暇なぞ無かろうよ!!」

「……では、“仮に”同志の策を採った場合――同志ら騎兵軍団の突撃のタイミングは、私が指示しようではないか!!」

「何だと!?」

 この瞬間、レスコーの平静が崩れて、彼の目の色が変わった。虚を突かれて、只々驚くことしかできないといいたところか。

 同じように騎兵軍団の幕僚達にも、衝撃が走った。レスコーとの付き合いが、馬賊時代からあるだけあって、目の色が彼と同じ色になっている。

「そうだろう!?どちらかの策の内、一方を採ったと仮定しても、結局は我々狙撃軍団が最初に最先端で戦うことにわけだ!!

 すると、敵の最前線の情報は此方(狙撃軍団)が早く握れるのだ!!それ故、狙撃軍団を率いている私がタイミングを指示した方が得策だろう!?」

 ドヤ顔で説明したエーヌに、怒りを覚えるレスコー。騎兵軍団の幕僚たちも、彼と同じような感情が芽生えている。

――何が何でも、自分の手柄にする気か……!?

 それでも、彼は平常心を取り戻して――

「それには及ばんよ――同志!!騎兵の扱いは、この前線にいる部隊の中で、この私が誰よりも心得ている!むしろ、私が指示する方が合理的というものだ!」と、丁寧ながらも負けじとエーヌに反撃した。

「何だと!?」

 またも興奮の余り、両手をテーブルに叩きつけてしまったエーヌ。その拍子にまたテーブルが揺れて、二つの赤い駒がコトンと倒れた。それに対し、三つの青い駒は揺れながらもしぶとく立ったままだ……。

 そして、レスコーは片手をテーブルに叩きつけて――

「同志は優秀だが、“現実を見る目”が欠けているようだな!!」と畳み掛けた。

 これに対し、エーヌも――

「そう言う同志も、“革命への情熱”が欠けているようだな……!!」と反撃。

 最早、会議の目的は――良い作戦練るためではなく、両軍団長のどちらかが主導権を奪うためシフトしてしまった。もう両軍団長は互いに言論ではなく、感情をぶつけ合っている状態なのだから……。

 ちなみに、この光景に両司令部の幕僚たちは呆れ果てていた。

――この戦……ヤバいかも……。と思っても、このままで呆れたままでいるわけにはいかない。彼らはそれぞれの上司を宥めることにする。同士討ちの危険は無くしたい。

「……同志軍団長!!ここは一旦司令部に戻って、同志各師団長らと協議してみては如何(いかが)でしょう!?」

「まだ、時間はあります!!ここは騎兵軍団(われわれ)も……!」

 すると、彼らは先のことが嘘のように静まった。そして間を開けずに二人同時に「「そうだな……!」」と発言したではないか。

 仲が“非常”に険悪なくせに、妙な時だけ息が合う。

 両軍団の幕僚達は、ため息を必死に堪えざるを得なかった……。

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