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ワールドクライシス  作者: 吉井 新十郎
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異世界にて

 意識が波のようにうねり、少年の心を荒く、底へ底へと引きずり下ろしていく。上へ上がろうともがいても、身体の自由は利かない。

 死という概念が、次第にその大きさを増していき、べったりと背中の方からまとわりついてくる。間もなく、自分は死ぬのだと、少年は感じ取った。暗澹とした意識の底は不思議と温かく、そして自分の心臓の鼓動が、段々と弱くなるのを感じるほど、静寂で、無機質なものだった。


 どれ程の時間がたったのか分からない。眼前を目が潰れそうな程の目映い光が覆った後、操り人形にでもされたかのように、意識が上へと引っ張り上げられ、全身が叩き付けられるような強い衝撃の後、少年は目を覚ました。そこは、少年の記憶にもないような奇妙な空間が広がっている。

 例えるならそう、まるで異世界にでも迷い込んだかのようだ。


 状況を整理しよう。そう思い、まずは自分の身体を確かめる。傷一つない。これはおかしいと思い、何度も自分の身体に手を当てるが、やはりどこも怪我はしていないのだ。


「……あり得ない」


 思わずそんな言葉が漏れる。自分は確かにあの時、赤信号であるにも関わらず、横断歩道に突っ込んできたトラックに轢かれたはずだ。それは間違えない、今でも鮮明に脳裏に焼き付いているし、あの意識の底を漂った記憶もある。

 理解が出来ないことで混乱するが、今は自分が何処にいるのか、それも確かめねばならない。一度、事故の事は考えないようにして、周囲を見渡した。

周りは複雑そうな機械がチカチカと赤いランプを点滅させ、上部に取り付けられたメーターが、ぐるぐると忙しく回転している。前方には一際大きい機械が真っ白な蒸気を上げ、左右から伸びているパイプが蛇のように脈動しながら、その中心にある鏡のような物体に、エネルギーを送っている。

 SF小説にでもでできそうなその機械は、不思議と威圧感を放っており、生きているかのようにも感じられた。


 その場から離れようと踵を返したとき、後ろの方から声が聞こえてくる。慌てて近くの機械の後ろに身を隠した。重厚な鉄の扉がゆっくりと開き、二人の男が入ってきた。一人は全身を白の衣装で着飾った長身で、腰には小銃と剣を差している。その後ろにいる小柄な男は、カタカタと何かを打ち込みながら、視線を手元に落とし、なれた様子で早足で扉を潜る。


「やはり、動作が安定しませんね。一度ギルヴィアの技術者に見てもらいましょうか?」


「いや、ギルヴィアの技術力を持ってしてもこれを安定化はさせられんだろうな」


 二人は先程の大きな物体の前で言葉を交わしていた。話を聞くに、あの物体は今不安定な状況にあるらしい。


「そういえば、以前話していたオルギアの実戦投入の件ですが、四号機の動作テストが完了次第、少々試してみたいのことがあるですが……」


「あの有人機か、構わん。オルギアの運用はお前に一任している、好きにしろ」


「有り難う御座います。では、その報告は後程」


 二人は話を終えたのか、部屋を後にしようとした。少年はその姿に注意を払いすぎたのか、足元に転がっていた部品に気づかず、足先で蹴飛ばしてしまい、大きな音を立ててしまった。


「……そこに、誰かいるのか?」


 長身の男が音のした方向に小銃を構え、威圧するような低い声でそう言った。

 暫く気配を消すものの、男はゆっくりと此方に近付いてきた。ここは一か八か、姿を見せることにする。

 恐る恐る立ち上がると、長身の男は驚いたような表情を一瞬見せたが、すぐに冷静さを取り戻し、今度は落ち着いた声で少年に訊ねた。


「君は、何者だ?なぜ、此処にいる?」


「お、俺は一条。一条真。気がついたら、此処にいた」


「……マルサ、こいつを今すぐに地下に連れていけ。どうやら、色々と聞く必要がありそうだ」



 腕に重々しい手枷を嵌められて、背中に銃を突き付けられがら、長い階段を下りていく。薄暗い照明が足元を照らし、その先に続く道を永遠のように思わせた。

 暫くすると階段は終わり、じめじめとした広い空間が広がる。四方には牢屋が見え、そこには何人か捕らえられていた。


「入れ」


 短くそう言い、牢屋の扉を開く。


「あの、俺は……!」


「話なら後で聞く、今は此処で大人しくしていろ」


 抵抗することも出来ず、一条は牢屋に入った。扉の鍵を掛けられ、完全に閉じ込められる。扉が完全に施錠されたことを確認したマルサは、足早にその場から離れた。

 

 どうすることも出来ず、その場に座り込む。固く冷たい地面の感覚が、お尻の方から全身に感じられた。


「おやおや、新入りかい?」


 隣の牢屋の方から声が聞こえてきた。やけに気楽で、能天気な声色だ。まるで今の状況を楽しんでいるかのようにも聞こえる。一条は声を無視して、部屋の隅に移動する。


「おいおい、無視することはないだろ?お隣さん同士、仲良くしようじゃないの」


「……今は、そんな気分じゃない」


 陽気な声にイラつきを見せながら返答すると、その声の主は嬉しそうに大笑する。


「ハハハ!なんだ、喋れるじゃないの。元気がありそうで良かったわ」


「元気なんてあるわけないだろ、こんなところに閉じ込められて」


「慣れれば案外快適よ、ここの生活も。……それで?何であんたさんは何をして、此処に来たわけ」


「なにもしてない」


「そりゃないだろ、何かヤバイことでもしないと、こんな所に連れてこられないって」

 

「分からないものは分からないんだ。何で、俺が此処にいるのか」


 一条の言葉に、隣の男はふーんと、間の抜けた声で暫く考え込むように黙り込んだ。

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