#097「秋雨前線」
舞台は、教室。
登場人物は、山崎、吉原、渡部の三人。
「遠足が終わったと思ったら、今度は中間考査か」
「三日から七日の五日間だね」
「教科日程は発表されてますから、しっかりと対策を練って、好成績を修めましょうね」
「俺が校長なら、真っ先にテストを廃止するけどなぁ」
「仮に校長になれたとしても、一学校長に、そんな権限はないよ」
「文部科学省の大臣になったとしても、実現は難しそうですね」
「うぅ。そこはかとなく胃が痛くなってきたような」
「さっきの体育で、あれだけ元気に走り回ってたのに」
「試験の話をした途端に、すぐに体調を崩すんですから。まるでパブロフの犬ですね」
「俺は人間だぞ?」
「そういう意味じゃないよ。条件反射だねってこと」
「テストへのマイナス感情は、根が深そうですね。よほど嫌な思い出が詰まってるものとみえます」
「誰だって、テストで嫌な思いはしてるもんだろう?」
「だからって、逃げ切れるものではないんだから」
「乗り越えられないほど肥大化してしまう前に、克服してしまいましょう」
「わかった、わかった。大人しくやるよ。やれば文句無いんだろう?」
「そう、喧嘩腰で言わないでよ」
「まぁ、この長雨では、気持ちが晴れませんよね」
「ジメジメとして嫌な気分だよ、まったく」
「不安定な秋の空模様は、よく女性心理に譬えられるよね?」
「変わりやすいのは、女性ばかりではないと思いますけどね」
「秋茄子は嫁に食わすなっていう奴か?」
「それは、また別の諺で、美味しい秋の茄子は、もったいないから嫁には食べさせるなという、姑の嫁いびりの言葉だよ」
「反対に、茄子は体を冷やしますし、種が少ないというのもあって、子供ができないといけないから、お嫁さんには食べさせてはいけないという、お嫁さんを大切に思うお姑さんの言葉だとする説もありますよ」
「嫁サイドからのカウンター・アタックとしては、姑にユッケを食わせることだな」
「老化した胃腸に、消化の悪い食べ物を送るんだ。陰湿だね」
「せめて、加熱しましょうよ。サルモネラ菌による食中毒が心配です」
「ビフテキとか、唐揚げとか?」
「ビフテキは古いよ、山崎くん」
「昭和の大衆食堂のメニューといった趣きですね」
「何だよ。サーロイン・ステーキとでも言わなきゃ駄目なのか?」
「いや、部位は、どこでも良いよ」
「シャトー・ブリアンとか、ティー・ボーンとか、リブとかロースとかランプとか、色々ありますからね。焼き加減は、ウェルダンでしょうか?」
「俺は、アルデンテが好き」
「ミディアムのこと? レアとウェルダンのあいだだけど」
「あいだといえば、中間考査の話ですけど」
「うっ。腸がチフスにやられた」
「腸チフスは、そんな急に症状が出る病気じゃないよ」
「仮に本当だとしたら、夕食は控えないといけませんね。ちなみに、今日のメニューは、和風ハンバーグです」
「ぐっ。それは、捨てがたい」
「二つに一つだよ、山崎くん。試験勉強をして、夕食を食べるか」
「保健室に寄って、明日の朝まで部屋で安静にするか、ですね」




