#095「曼珠沙華」
舞台は、教室。
登場人物は、山崎、吉原、渡部の三人。
「ここは、著者が読者の対する敬意ですから、尊敬語です」
「さっきと同じだな。ここは?」
「それは、著者の帝に対する敬意で、衣を被いたの中将はだから、謙譲語」
「帝の行為ではありませんから、注意してくださいね」
「うぅん。いまいち、尊敬と謙譲の違いが理解できない」
「文語だもんね。口語でも使い分けられてないのに」
「例外が多いのが、困りものですね」
「普段から丁寧にお話になられる人間なら、楽勝なんだろうなぁ」
「そう申しておりますが、渡部様は、いかがお考えになられますか?」
「私も、尊敬語と謙譲語は、よく取り違えてますよ」
「渡部ですら、使いこなせないんだったら、俺には絶対無理だな」
「もぅ。そうやってすぐに投げ出すは悪い癖だよ、山崎くん」
「そうは言いますが、吉原さん。あまり根を詰めても良いことありませんし、休憩にしませんか?」
「渡部の言う通りだ」
「仕方ないなぁ」
「火おこし、十能、火箸、火消し壷、五徳、灰ならし、灰ふるい、金網」
「昔は、暖ひとつ取るにも、一苦労だったんだな」
「お爺さんが使ってた古い道具が、まだ納戸に眠ってるんだ」
「骨董品の山ですね」
「火鉢と言えば、吉原の家の玄関脇に、でかい金魚がいたな」
「あれは手水鉢だよ、山崎くん」
「三匹ほど泳いでましたね」
「縁日で掬ったのか?」
「僕じゃなくて、お爺さんがね」
「たしか、菊の栽培と盆栽の剪定がお好きだったんですよね?」
「よく覚えてるな、渡部」
「僕も、話したことを忘れてたよ」
「昨年の今頃ですよ。お墓参りに必ず菊を持っていくのは、それが理由なんですよね?」
「思い出してきたぞ」
「そうそう。他の花も供えるけど、菊は欠かせないって言ったんだったね」
「素敵な心掛けですよね。――さて、そろそろ再開しましょう」
「もう少し、語ろうぜ」
「駄目だよ、山崎くん」
「休憩は、もう充分でしょう?」
「ウゥム。やるしかないか」
「山崎くんって、なかなか勉強に火が点かないよね」
「炭火と一緒ですね。一度、火が点いても、安定しませんし」
「ひどい言い草だな」
「むらのある火力のせいで凍えるたり火傷したりする、周りの立場にもなってよ」
「適度な温度を保つのは、難しいものですね」




