#093「紋切典型」
舞台は、寮の自室。
登場人物は、山崎、吉原、渡部の三人。
「週末は、お疲れさまでした」
「普段は出来ない体験が出来たから、楽しかった」
「緊張したけどね」
「フフッ。私も、面白い経験が出来ました」
「それにしても、渡部の父ちゃんって、凄い人だよな」
「プラチナ・カードを生で見たのは、あれが初めてだよ」
「ブラック・カードに比べれば二流ですよ?」
「キャッシュ・カードの審査に通るだけでも、大したものなのに」
「次元が違うよね」
「父いわく、祖父の七光りなのだそうです。私は、祖父と父とで、十四光りといったところですね」
「そこは、足し算じゃなくて掛け算じゃないか?」
「四十九光りってこと?」
「そこまで眩しいものでしょうか?」
「後光が射してる」
「日頃の感謝を込めて、拝んでおこう」
「やめてくださいよ。恥ずかしいじゃありませんか」
「下品な話かもしれないけど、お金って、あるところにはあるんだなぁ」
「貯めようと思っても、貯まらないのにね」
「お金は、有意義に使ってこそ価値があるものですよ。溜め込んでいても、懸念材料になるだけです」
「考えかたが、下々の者とは百八十度違うな」
「一度で良いから、そういうことを言ってみたいものだよねぇ」
「贅沢な悩みかもしれませんが、父も、人知れず苦労しているようです。税金を減らす措置を取れば、法律上違反してなくても白い目で見られかねませんし、多額の寄付をすれば、売名行為だと言われかねませんから」
「僻み、やっかみ、妬み、嫉み」
「そういう感情を持つ人間は、自分が貧乏であることを合理化するために、金持ちを悪者扱いしたいんだろうね」
「小説でも映画でも、たいてい資産家は、性格が捻じ曲がった悪役ですよね」
「そうでなきゃ溜飲が下がらないんだよなぁ、これが」
「たとえ現実には、渡部くんみたいな良い人が多いとしても、ね」
「何とか、マイナス・イメージを払拭することは出来ないものでしょうかね」
「離れたところから、向かい合って睨んでるうちは無理だろうな」
「隣に立って、同じほうを向かなきゃね」
「サン・テグジュペリの『夜間飛行』ですか?」
「誰だ、その人?」
「『星の王子様』の著者だよ。手に入れたお金を全額、自分のためだけに使おうと考えている人間の下には、大金は舞い込んで来ないように出来てるんだろうね」
「使い慣れない大金を手にしても、つまらないことで費消してしまいそうですね」




