#089「十志六磅」
舞台は、教室と寮の裏手。
登場人物は、山崎、吉原、渡部、辺野古の四人。
「聞いてくれよ、渡部」「渡部くん、聞いてよ」
「左右で同時に言わないでくださいよ。早押しボタンつきのシルクハットは、かぶってません」
「アメリカ大陸を横断するのか」
「ニューヨークを目指してだね」
「それで、何があったのですか?」
「それなんだけどさ」「大変なんだよ」
「どうやら、ここに来るまでのあいだに、何かあったみたいですね。見に行きましょう」
「鳥居モドキが、倒れてますね」
「ほら、夏に大雨が降っただろう?」
「それで、地盤がゆるんだんじゃないかと推理してたんだ」
「それも、原因の一つでしょうね。今年は、まとまって降りましたから」
「洪水や土砂崩れのニュースが多かったよな」
「日本だけじゃなくて、世界の各地で異常気象だって言われてたよね」
「こうも毎年のように異常気象に見舞われると、それが新たなスタンダードのように感じますね」
「まったく、不思議なもんだな」
「不可解だよね。それで話を戻すけど、これが倒れてるのに気付いたのは、つい今しがたのことなんだけど、いつ倒れたんだろう?」
「最後に見たのは、夏休み前ですよね。日頃は、こちらまで足を運びませんし」
「そのあとは、試験とか、留学生騒ぎとかで、バタバタしてたもんな」
「すっかり、この存在を忘れてたよね」
「普段は誰も近付かないところですから、被害が無くて良かったですよね」
「真下に居たら、怪我じゃ済まないところだ」
「結構、重量があるもんね」
「これだけの重さの物体が倒れれば、音で気付きそうなものですよね」
「そうなると、やっぱり、夏休み中ってことになるのか?」
「その可能性が高そう」
「おぉい、そこの三人」
「あっ、辺野古さん」
「何やってるんだ、そんなところで?」
「これが倒れたのはいつか、推理してるんだ」
「そんなことか。それは倒れたんじゃなくて、グラグラして危ないから、夏休みで生徒が居ないうちに、意図的に倒したんだ」
「何だ。そうだったんだ」
「謎は解けたかい?」
「えぇ、半分は」
「もう半分は?」
「倒されちゃ、解決できないだろうなぁ」
「迷宮入りだね」
「残念ですけど、安全のためですから」
「そうだ。こいつの根本から、出てきたものがあったんだった」
「えっ、何?」
「何だろう?」
「根本に、何が埋まってたんですか?」
「価値があるものだとは思わないが、量が多いんでな。一応、用務員室に積んであるんだが、見に来るか?」
「行く」
「積み上げるほど、量が多いもの、か」
「何でしょうね」




