#008「金曜夕方」
舞台は、寮の食堂。
登場人物は、山崎、吉原、渡部、三好の四人。
「今日の夕食は、コロッケ・カレーか」
「金曜日は、いつもカレーですね。――はい、お盆」
「曜日感覚が狂わなくて助かるね。海軍と同じだ。――ありがとう。はい、山崎くん」
「制服だって、そうだな。――おぅ。どうも」
「海軍型で、ネイビー・ブルーの詰襟ですからね」
「夏服は、半袖のセーラー服だしね」
「初めて着たときは抵抗があったが、動きやすいし、脱ぎ着が楽なんだよな」
「下は、一年中スラックスですからね。――はい、お皿とスプーン」
「スコットランドの民族衣装じゃないんだから、スカートは穿けないよ。――ありがとう。はい、山崎くん」
「バグパイプも持ってないしな。――おぅ。どうも」
「フフッ。乾パンのイラストですね」
「同じ会社から、ハート型のパイも売ってるよね」
「あれも同じなのか。何とかコレクションで、金賞を受賞してるんだろう?」
「モンド・セレクションですよ。これほどまでに、この賞を有り難がるのは、日本人だけなのそうです。海外では、それほど知名度が高くないのだとか」
「そうなんだ。日本人って、西洋に弱いね」
「カレーだって、洋食だぜ?」
「そうですね。ここまで定着してる外国料理も、珍しいですね。日本のカレーはイギリス式ですから、本場とは、また違った料理になってますし」
「中華料理だって、中国では通用しないよ?」
「イタリア料理や、フランス料理も、どこか違うな」
「ナポリに、ナポリタンはありませんものね」
「アレンジが好きだよね」
「オリジナルではなくてな。独自の進化で、他に類を見ない変貌を遂げてるな」
「ガラパゴス化ですね」
「情報端末にも言えるね」
「そうだな。――おばちゃん。三人分、お願い」
「おや。いつものトリオだね。量は、いつも通りでいいね?」
「いいよな?」
「いいですよ」
「いいよ」
「すぐ、出来るからね。お兄さんと弟くんは高松に帰るそうだけど、一緒に帰るのかい?」
「はい。土日は書き入れ時だから、人手がいるんだ」
「親孝行だね。吉原くんは? 尾道だったわよね?」
「僕も、今週は帰るつもり。でも、渡部くんは居残るみたい」
「あら。どうして?」
「今週は、積読を片付けたいものですから。帰ると、母と姉妹から質問攻めにあってしまいますし」
「そうね。たまには、一人で羽を伸ばす時間を作るのも大切ね。はい。三人前、お待ち」




