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#088「固定観念」

舞台は、寮の自室。

登場人物は、山崎、吉原、渡部の三人。

「長ズボン、ロング・スカートの禁止」

「シャープペンシルの使用禁止」

「あだ名、呼び捨ての禁止」

「習ってない漢字の使用禁止」

「小学校って、謎の決まりが多いよな」

「理不尽だよね。あっ、渡部くん」

「ただいま戻りました」

「お帰り」

「面白そうな本はあった?」

「三冊ほど借りてきました。何の話をしていたのですか?」

「小学校のときに、苦い思いをした規則を挙げてたんだ」

「悪しき平等主義が蔓延している、という方向で話が進んでるよ」

「学校と刑務所は、共通点が多いですよね」

「たしかに。服装が決められてたり、列を作って歩かされたり」

「上意下達の構造だったり、何時に何をするか定められていたり」

「個人の主体性が軽視されたり、沈黙と秩序を強調されたり」

「自由が無いよな」

「得意なことを伸ばさずに、苦手なことを強制するよね」

「突出したところを偏りであるとみなして、均質にしようとしますよね」

「出席番号にしても、成績表にしても、数字で管理するもんな」

「一つの価値観を押し付けないで欲しいよね」

「みんな違って、みんな良い、という精神を尊重することを強制される、学校教育制度の構造上の矛盾ですね。差別を無くそうという働きが、かえって一種の偏見を生むというのですから、皮肉なものです」

「偏った考えかたはしない、というのも、一つの偏った考えかただもんな」

「多様な価値観を認めなければならない、という価値観を押し付ければ、多様な価値観を認めないという価値観の否定になるもんね」

「アインシュタインいわく、十八歳までに集めた偏見のコレクションが、その人間の常識なのだそうです」

「それじゃあ、高校を卒業するころまでの物の捉えかたに、一生つきまとわれるのか?」

「そうとは限らないよ。ただ、物事を先入観無しに見つめるのは、年を重ねるごとに難しくなるってことじゃないかな?」

「おそらく、そういうことなのでしょうね」

「先入観って、厄介なものだな」

「過去の経験が、新しい物事の理解を邪魔するんだね」

「パズルや謎々も、知識や経験が豊富な人物ほど長考してしまいがちですよね」

「箱の中に入れてあるボールが多いほど、そこから目的の一つの取り出すのに時間が掛かるようなものだな」

「よっぽど厳密に整理整頓されてない限りは、そうなってしまうね」

「もしくは、検索速度を上げることですね」

「ここに一台、高性能の検索エンジンがある訳だが」

「しかも、大量の情報を保有してるという優れものだね」

「ここで二人に、簡単なクイズです。赤、青、緑の三冊の本があり、三冊とも読了した人は、必ず赤の本が一番面白かったと言います。しかし、その評判を聞いた人は必ず、青の本を読んでみると言います。それは何故でしょう?」

「赤の本が一番面白いのに、青の本を読むのか。天の邪鬼だな」

「お楽しみは最後に取って置く性格なのかなぁ」

「性格ではありませんよ。もっともな理由があります。先入観を捨てて考えてみてください。私は、読書に没頭しますから、わかったら声を掛けてくださいね」


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