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#087「解毒作用」

舞台は、寮の自室。

登場人物は、山崎、吉原、渡部の三人。

「今回は、また一段と酷いね」

「派手に喧嘩したものですよね。――じっとしてくださいね」

「先に手を出してきたのは、聡司のほうだ。――カッ、染みる」

「売るほうも売るほうだけど、買うほうも買うほうだよ、山崎くん」

「敦史さんが止めに入らなかったら、歯や骨の二、三本は折れてたかもしれませんね。――今度は背中を診ますから、バンザイしてください」

「自力で脱げるって」

「そもそも、原因は何だったのさ?」

「暴力に訴えないといけないほどのことだったのですか? ――引っかき傷ですね」

「覚えてない。途中から、殴られてることに腹が立ってきて、理由なんかは、どうでもよくなった。――ヒッ」

「されて嫌だったことの記憶は、時間が経過するに従って、負の感情が増幅され続けるものだよ」

「されて嬉しかったことの記憶は、時間が経過するに従って、正の感情が増幅され続けますよ。どちらにしても、些細なことから始める点では共通していますね。――あと二ヶ所ありますから、我慢してください」

「何が言いたいんだ? ――アッ」

「手遅れにならないうちに、謝りなよ」

「早めに手を打たないと、拗れますからね。――今度は、脚を診せてください。脱げますか?」

「向こうが先に謝るのが筋だ。――だから、一人で出来るって」

「兄弟が居るのも、大変だね」

「姉妹に挟まれるよりは、良いと思いますよ? ――見事に青痣になってますね。冷やしましょう」

「絶対、男兄弟のほうが嫌になるから。――ハッ」

「そんなに嫌なものかなぁ」

「何でしたら、渡部家の養子になりますか? 父は、もう一人、男の子が欲しいと言ってますから、喜ぶと思いますよ? ――はい。手当ては終わりです」

「あぁ、いや。嫌な家族でも、他人には代えられないし」

「真に受けすぎだよ。冗談に決まってるじゃないか」

「家族思いなんですね。それなら、次にすべき行動は、お分かりですね?」

「気が進まないが、聡司に会ってくる。夕飯には戻れる、と思う」

「頑張ってね」

「ちゃんと仲直りするんですよ」

「……一件落着だね」

「そうですね。でも、養子の件は、ほんの少し残念です」

「まさか、本気だったの?」

「半分は。――それでは、救急用具を保健室に返してきますね」

「いってらっしゃい。……何だろう、この底知れない薄ら寒さは?」

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