#082「国際理解」
舞台は、教室。
登場人物は、山崎、吉原、渡部、リチャードの四人。
「数学とイングリッシュは、クラスが半分ですネ」
「奇数と偶数で分かれてるんだ」
「キス? グス?」
「えぇっと。奇数は、一、三、五、七、九。偶数は、二、四、六、八、十」
「アハァ。オッド・ナンバーと、イーブン・ナンバーですネ?」
「そうそう」
「何だ、吉原。居るなら、返事してくれよ」
「リックくんから質問の集中砲火を受けて、体力が限界なんだよ」
「日本語でも、数学の説明は難しいもんな」
「それ以前の話だよ。何で半数ずつで授業を受けるのか。二人の教員が一つのクラスを教えては駄目なのか。どうして他の科目は少人数ではないのか」
「基礎から発展まで手厚くサポートする方針なんだが」
「それを、日本型教育を知らない人間に解説するんだよ?」
「想像しただけでも、骨が折れそうなのは理解できる」
「言葉や文化の壁は、大きいですよね」
「あぁ、渡部くん」
「渡部は、言葉が通じるからいいじゃないか」
「通じるからといって、好かれる訳ではありませんよ」
「そういえば、渡部くんは帰国子女なのかって聞かれたよ」
「海外生活の経験は無いんだよな?」
「旅行を除けば、未経験です」
「それにしては、英語が上手だよね」
「スラスラと淀みなく言葉が出てくるもんな」
「父親の仕事の関係で、英語に触れる機会が多かったからでしょうね。でも、リックさんには、私の英語は、お気に召さないようです」
「どうして?」
「日本人の癖に、自分より綺麗な英語を話すからじゃないか?」
「一口に英語と言っても、地域によって違いがありまして。例えば、ライナスさんはカナダ人ですから、フランス語に近い訛りがありますし、ローレンスさんはオーストリア人ですから、ドイツ語特有の訛りがあります」
「リックくんは、オーストラリアから来たって言ってたね」
「シドニーだったか?」
「メルボルンですよ」
「どっちも、夏季五輪開催地だけどね」
「シドニーは知ってる。メルボルンは、いつだ?」
「今から六十年前ですよ。南半球初の大会として、大いに注目されたそうです」
「今年のリオ五輪で、南半球は三回目なんだよね」
「北半球と南半球じゃ、季節が逆だもんな」
「先進国も、大半は北半球に集中してますからねぇ」
『欧州の海賊たちが、植民地の獲得競争で荒らして回ったせいだ』
「あぁ、戻ってきたんだ」
「今、何て言ったんだ?」
『帝国主義は、褒められた行為ではありませんね』
『日本人の癖に、クイーンズ・イングリッシュを使うな。紳士気取りで癪に障る』
「二人だけで話さないでよ」
「何を話してるか知らんが、険悪なムードだな」
『ごめん遊ばせ。豪州は、ならず者の集まりでしたね』
『送り込んだのは、どこのどいつだ。この野郎』
「わっ。渡部くん、大丈夫?」
「リック、落ち着け。こんなところで暴れないでくれ」




