#080「陶製蚕豆」
舞台は、渡部家。
登場人物は、渡部、愛実、清美の三人。
「今日のおやつは、ガレット・デ・ロワです」
「美味しそうね」
「お兄ちゃんが作ったの?」
「そうですよ、愛実。ちゃんと、フェーブも入れました」
「フェーブを入れた」
「ということは?」
「もちろん。当たった人に、あと片づけをしてもらいます」
「渡部家ルールは、有効なのね」
「どう見ても、どれに入ってるかは、わかんないなぁ」
「私も、作っているうちに、わからなくなりました」
「六等分したのね。二人で先に選んで良いわよ」
「それじゃあ、わたしは、コレとコレ」
「私は、この二つにします。はい、お姉さん」
「ありがとう。いただきます」
「いただきます」
「いただきます。――中まで火が通ってますか?」
「しっかり焼けてる」
「あたしのも、大丈夫よ」
「それなら、安心です」
「お姉ちゃんが作ったときは、皮と底が焦げてたもんね」
「愛実のときは、中が生焼けだったじゃない」
「まぁまぁ」
「そういえば、ガレット・デ・ロワってどういう意味なの?」
「フランス語よね」
「王様たちのケーキという意味です。本来は、東方の三博士がキリストの誕生を祝ったとされる故事にちなんだ公現節に作るケーキで、新年を迎えたことを寿ぐ意味合いが強い食べ物なんです」
「へぇ、そう。――一つ目は、誰も当たらなかったのね」
「博巳は、物知りね――お菓子を作ったあとは、ボウルもヘラもベタベタしてるのよねぇ」
「作る前に調べたんです。――バターを多く使うので、洗うのが骨ですよね」
「お父さんと、お母さん。今頃、どこで何をしてるのかなぁ」
「お父さんは、今日はお母さんとドライブ・デートだって、朝からはしゃいでたけど」
「久々の休みですからね。夫婦水入らずで楽しんでいることでしょう」
「天気も良いもんね」
「絶好のバカンス日和ね」
「そうですね。――ごちそうさま」
「あれ?」
「フェーブは?」
「ごめんなさい。私の一つ目に入ってたんです」
「なぁんだ。――ごちそうさま」
「ドキドキして損したわ。――ごちそうさま」
「綺麗に食べましたね。お粗末さまでした」




