#079「長男会議」
舞台は、山崎家。
登場人物は、敦史、吉原、渡部の三人。
「二人とも、充電が切れたみたいだね」
「誰よりも張り切ってましたからね」
「悪いな。宿題を手伝わせた上に、こんなことまでさせて」
「二人に無理をさせた僕たちにも責任はあるよね、渡部くん」
「そうですね、吉原さん。二人には、ここ数日、遅くまで頑張らせてしまいましたからねぇ」
「明日には、遅い盆休みを過ごした親が戻ってくる。店のほうも午後から開けるから、帰る前に好きなメニューを食べて行ってくれ」
「ありがとうございます」
「楽しみにしてますね」
「大衆向けで、大したメニューはないから、過度の期待はしないようにな。――こういうことを聞くのは、二人には、まだ早いかもしれないんだが」
「何ですか?」
「何でも聞いてください」
「二人は高校を卒業したあと、どうするつもりなんだ?」
「まだ本決まりではないんですけど、地元の公立大学に進もうかと考えてます」
「私は、東京か、それとも海外か。ともかく、親元を離れた場所の大学に進学して、一人暮らしをしたいと考えています」
「そうか。やっぱり、二人とも大学に行くのか」
「何だかんだで、大学は出ておいたほうがよさそうなので」
「だからと言って、将来、一生安泰という保障はありませんけどね」
「俺たちの親世代が体験してきたような旧来のサクセス・ストーリーは、もう、とっくに通用しなくなってるもんなぁ」
「いい学校に入って、いい会社に入って」
「お嫁さんを貰って、子供を授かって」
「ローンで家を建てたり、車を買ったりするような人生だな」
「それが悪いとは言わないけど」
「これからの時代には、合ってませんよね」
「社会の動きと教育制度とが、うまく連続してないんだよなぁ」
「溝というか、段差というか」
「大きな隔たりがありますよね」
「こういう考えかたが古臭いのは、よく分かってるんだが、これでも長男だから、店のこととか、二人の弟のこととか、そういうことを気にしてしまって、進路を決められないんだ。そこに、先行きの不透明さが加わって、本当に、どうしたら良いものやら」
「こう言うと、安易な同情に聞こえるかもしれないんですけど、敦史さんの気持ちは、よく分かります」
「期待されて育ちますものね」
「長男ってだけで、貧乏くじを引かされるもんだよな」
「実験台だもんね」
「生まれてくる順番は、選べませんからねぇ」
「……いけない。話が湿っぽくなってしまった」
「夜に話す向きではないね」
「しんみりしてしまいましたね。――何か、お探しですか?」
「あった」
「筆ペン?」
「ハガキか手紙でも認めるのですか?」
「ここに筆ペンがあり、すぐそこで、無防備に寝ている人間がいるとなれば、やることは一つだろう?」
「そういうことか」
「フフッ。面白そうですね」




