#070「乳白天河」
舞台は、仙台。
登場人物は、山崎、吉原、渡部の三人。
「東北なら涼しいかと思ったら」
「あまり変わらないね」
「秋田や山形に比べたら、仙台は、まだ涼しいほうですよ」
「それにしても、渡部が別荘持ちとはなぁ」
「驚きだよね」
「このサマー・ハウスは、伯父さんのですよ。津波で流されたのを再建したばかりなので、まだ、新築同様です」
「でも、昨年の秋以来、使ってないんだろう?」
「贅沢だよね」
「もったいない使いかたかもしれませんね。さて。それでは、ロフトから掃除していきましょう」
「そうだった。先に行って掃除を済ませることが」
「無料で借りる条件だったね」
「はい。二人とも、荷物からバンダナとエプロンとマスクを出してください」
「明日、六日から八日までか」
「こっちの七夕は、八月なんだな」
「旧暦に合われた、月遅れの開催です」
「アーケードの笹飾りは、よくニュースで取り上げられてるよね」
「それは、俺も観たことがある」
「間近で見ると、豪華絢爛で迫力がありますよ」
「この行事も、やっぱりあの偉人が関係してるの?」
「あの名前、どう考えても、読みかたがおかしいと思うんだよなぁ」
「仙台藩祖、伊達政宗公ですね。彼が治めていた十七世紀初頭には、すでに行なわれていたようです。何首か、七夕を詠んだ和歌が残っていますから」
「正宗公も、こうして短冊に願いを書いたのかな?」
「武芸が上達しますようにって?」
「書かなくても良さそうなものですけどね」
「あぁ、駄目だ。バラバラになった。俺には、こういうチマチマした作業は向いてない」
「短冊しか作れてないじゃないか」
「あと六つあるんですけどねぇ」
「何で、七つも作らないといけないんだ?」
「理由は、この冊子に書いてある通りだよ」
「この七つ飾りには、それぞれに意味があるんです。短冊は、学問や書道の上達。紙衣は、病気や災難の厄除けと、裁縫の上達。折鶴は、家内安全と健康長寿。巾着は、商売繁盛。投網は、豊漁や豊作。屑篭は、清潔と倹約。吹き流しは、織姫の織糸ですから、機織の上達です」
「意味が分かってもなぁ」
「短冊に、鶴が折れるようになりますように書いておけば?」
「良いですね、それ」
「良くない。そんな恥ずかしいこと書けるか」




