#069「三人三色」
舞台は、喫茶店。
登場人物は、山崎、吉原、渡部の三人。
「俺が緑で」
「僕が青で」
「私は赤ですね」
「俺は緑って感じなんだな」
「マスターには、僕たちのイメージ・カラーだとは言われたけど」
「どういう意味なんでしょうね」
「まぁ、考えても仕方ない。気が抜けて溶ける前に、飲んでしまおう」
「緑はメロン、赤はイチゴ、ここには無いけど、黄色はレモンとして、青は何なんだろう? ちょっと調べてみるね」
「かき氷のシロップなら、ブルー・ハワイですよね」
「そもそも、ブルー・ハワイって何の味なんだ?」
「うぅん。どうも、製造するメーカーによって違うみたい」
「曖昧なものなんですね」
「とりあえず、何となく洒落たものだってことで。それより、さっきの古本屋で何を買ったんだ?」
「僕も気になってたんだ」
「読んでみますか?」
「これは、翻訳小説だな。外国文学って、説明が長いから、読むのが億劫なんだよなぁ」
「しかも、日本語として変な言い回しが多いよね。――パラフィンでカバーされてるから、そこそこ古い本だよね?」
「地の文が長いと、退屈かもしれませんね。――奥付は、三十年少し前です」
「昭和じゃないか」
「今は百円で売られてるけど、当時はいくらだったんだろう?」
「帯に星がありますよ。白星が百円、黒星が五十円です」
「帯?」
「帯は、本に巻いてあるコレのことだよ」
「この文庫は、青、黄、緑、赤、白の五つの色の帯が巻かれているのです」
「それぞれ、何味なんだ?」
「食べないでね。青は人文科学と自然科学、白は社会科学、赤は外国文学」
「黄帯が江戸時代以前の日本文学、緑帯が近代以降の日本文学です」
「それで、この本は面白いのか?」
「別の出版社の新訳で読んだことがあるけど、難解な話だよ」
「私も以前、新訳で読みました。考えさせられる話ですよね」
「新しい本で読んだのに、さらに古い本を読むのか」
「読み比べると、面白いのかもしれないよ、山崎くん」
「好みを押し付けることはしませんが、読む気になったら声を掛けてくださいね」
「その気になるとは思えないけどな。――それにしても、よく歩いたなぁ」
「僕も、普段なら行かないようなところにまで足を運んだよ」
「ガイド、お疲れさまです」
「あっちこっち振り回してしまったもんな」
「案内を引き受けたからには、二人の都合に合わせるのが筋だから、構わないよ。それで二人とも、昨日と今日と市内をほうぼう見て回った訳だけど、どうだった?」
「色んな発見があって、楽しかったですよ」
「俺も、面白い体験ができたから、大満足だな」
「良かった」
「でも、帰ってしばらくは、三人から質問攻めです」
「ハハハ。俺も、帰りたくないなぁ」
「まぁ、そう言わずに。家に帰るまでが、旅行だよ?」




