#068「一泊二日」
舞台は、尾道。
登場人物は、山崎、吉原、敏子、渡部の四人。
「これが、尾道か」
「昔から、小説の舞台や、映画やドラマの撮影地に選ばれるだけのことはありますね」
「観光で来るには良いかもしれないけど、住むには不便が多いんだ」
「そうかもしれない。この暑い中、こうも坂を上り下りするとあってはなぁ」
「風情はありますけど、高低差がネックですね」
「健康なうちは良いけど、病気になったり年を取ったりしても住み続けられるかといえば、それ難しいところで、その辺の問題が、住民の閉鎖性にも繋がっていて、遠隔地からの移住者が、この街に難色を示す原因の一つになってると言われてるんだ」
「どこの観光地も、似たような問題を抱えてる訳か。面白そうなものが多いから、探検には、もってこいの街なんだけどなぁ」
「日本の原風景といったレトロな景観が魅力で、何だか、ワクワクしますよね」
「路地や階段が多いから、はぐれて迷わないようにね」
「ここだよ」
「立派な家だな」
「重厚な佇まいですね」
「古いだけだよ。雨漏りがしたり、隙間風が吹いたり、水廻りが遠かったりで、住み心地は良くないんだ。――ただいま」
「おかえり、敏生。そちらの二人が、お友達ね」
「どうも、山崎です」
「はじめまして、渡部です」
「二人から、お土産を預かってるんだ。これだよ」
「まぁ、お気遣いいただかなくっても」
「いや、ただでお世話になる訳にはいかないから」
「お口に合えばよろしいのですが」
「山崎くんは瓦煎餅、渡部くんはマドレーヌだよ」
「あとで、お茶と一緒に持っていくわね。さっ、あがって」
「「お邪魔します」」
「立派な蔵書ですね」
「この本棚に並んでる本は、どれも吉原のなのか?」
「うぅん。僕のは、手前に積んである文庫本だけ」
「そちらは、カバーのない本ばかりですね」
「全体に茶色いな。古本か?」
「そうだよ。三冊百円で軒下に並べられてた本なんだ」
「この近くに、古書店があるのですか?」
「行ってみたいのか、渡部?」
「連れて行きたい気持ちは山々なんだけど、火曜日と水曜日は定休日なんだ」
「それは残念ですね」
「明日行けば良いじゃないか」
「そうだよ。明日、帰る前に寄れば良いんだよ」
「それも、そうですね」




