#064「童心回帰」
舞台は、寮の自室。
登場人物は、山崎、吉原、渡部、源田、杉並の五人。
「なーべ、なーべ、そーこ抜け」
「そーこが抜けたら、帰りましょ」
「どうしたんですか、二人とも」
「わらべ唄や童謡について話してたんだけど」
「動作を思い出してたら、実際にやってみようってことになったんだ」
「そうでしたか。他には、どんな唄を?」
「さっきは、茶壷の手真似を思い出してたんだ」
「ちゃー壺、茶壺」
「茶壷にゃ、蓋がない」
「そーこを取って、蓋にしろ。これで良いんだよな?」
「よく知られてるのは、これだと思う」
「地域によって、微妙な差がありますからねぇ」
「あとは、もう何人か集まらないと出来そうにないな」
「かごめかごめ、通りゃんせ、花一匁」
「どれも、四、五人は欲しいところですね」
「幼稚園ぐらいのときは、言葉の意味なんて考えずに、暢気に唄ってたものだが」
「よくよく考えると、不思議な歌詞が多いよね」
「様々な解釈がされてますよね。かごめかごめは、嬰児殺しの犯人探しだという説とか、通りゃんせは冥界への旅立ちだとか、花一匁は少女の身売りだとか」
「詳しいな、渡部」
「諸説あって、どれが正解ってことは無さそうだけど、興味深い説だね」
「そういう解釈の仕方もあるんだと知ると、面白いですよ」
「そういうものなのか?」
「そういうものなんだよ」
「日本の唄だけではありませんよ。ロンドン橋落ちたは、知ってますよね?」
「たしか、通りゃんせと同じような遊びかたをするんだよな?」
「そうなの? 詩は知ってるけど、遊んだことはないね」
「うぅん。実演すると、手っ取り早いのですが」
「三人では、厳しいな。――誰か、ノックしてなかったか?」
「聞こえた?」
「そう言われると、そんな気がしてきました」
「はい、どうぞ。あぁ、何だ」
「誰? あぁ」
「源田さんと、杉並さんですね。どうかしましたか?」
「えぇっと、忘れ物を届けに来たんです」
「きっと、渡部先輩のだと思うんですけど」
「本当だ。渡部の手帳だ」
「独特の手帳だよね」
「ボールペンを差し込むとページが開かないようになったり、栞が二本あったり、どのページも百八十度開くことが出来たり、毎日、ちょっと面白いことが書いてあったりして、便利なんですよ。どこにあったんですか?」
「その、図書室の、文庫本の棚の上にあったんですけど」
「ごめんなさい。確認しようと思って、うしろのほうの何ページかを見てしまいました」
「でも、届けに来るためだったんだろう?」
「謝ることはないと思うよ」
「見られて困ることは書いてませんから、気にしなくて良いですよ」
「すみません」
「ありがとうございます」
「礼を言うのは、こっちのほうだと思うぜ。なぁ?」
「わざわざ、二年生の部屋まで持って来てくれたんだものね」
「置き忘れに気付いてませんでしたから、助かりました。ありがとう」
「とんでもない」
「それじゃあ、僕たちは、これで」
「待った。一つだけ、協力してくれないか?」
「もしかして、さっきの話?」
「頭数が揃いそうですね」
「何の話でしょうか?」
「一体、何をすればよろしいのですか?」
「身構えなくても、無茶な要求はしないって」
「一緒に遊んでもらえれば、それで良いんだよ」
「十歳ほど若返ったつもりで、ね?」




