#061「因循姑息」
舞台は、寮の自室。
登場人物は、山崎、渡部の二人。
「期末試験は、草臥れた」
「お疲れさまです。今日から終業式の前日まで、短縮授業ですね」
「実技教科が無いのが、ちょっとなぁ」
「この暑さですから、体育が無いのは良いのですが、美術も無いのは物足りませんね」
「ここは男子校だから、ともすると忘れがちなんだけどさぁ。何で体育の授業は、男女別なんだろう?」
「体格や、身体構造に違いがあるので、求められる運動機能が異なるから、という答えでは納得できませんか?」
「できないな。それにしたって、不自然だ。これは、俺が中学の頃の話なんだけどさぁ。体育の武道は、男子は柔道、女子はダンスって決められてたんだ。だけど、ダンスが良いって男子もいれば、柔道をやりたいって女子もいて、それを受けた保護者が、どうして生徒の自由に選べないんだって先生に抗議して、ちょっとした揉め事になったことがあったんだ」
「男子は、かくあるべき。女子は、かくあるべき。そうやって決め付けてしまえば、あとは型にはめるだけで良いので、教師としては楽なんでしょうけど、学校教育としては、思考停止に安住している嫌いがありますね。それで、どうなったんですか?」
「はっきりした答えを出さないまま、のらりくらりと避けて、有耶無耶のまま続けられたんだ」
「残念ですね。体育のありかたを考え直す、良い切っ掛けでしたのに」
「もっと性別のことについて、柔軟に考えなきゃいけないって、保健の授業で言ってたよな。エル・ジー・ビー・ティーだっけ?」
「性的マイノリティーの人たちですね。十三人に一人だそうですから、決して少ない数ではありませんよね」
「それで、昔の中国の考えかたが根強いのが、理解の障害になってるって言ってたよな?」
「男女七歳にして席を同じうせず、ですね。元は、四書五経の一つの『礼記』にある記述で、七歳になれば、男女で一枚の蓆に座らず、みだりに親しくしてはいけないという教えですが、時代遅れも甚だしいですね。江戸時代ではないんですから」
「丁髷を切って、文明開化しないとな。それにしても、ずいぶんと熱弁するんだな」
「一人称のことで、よく注意されましたから」
「私ではなく、俺や僕と言いましょうってか?」
「そうです。英語では、どれもアイなのに」
「そうだよなぁ」




