#060「冷水地獄」
舞台は、プール。
登場人物は、山崎、吉原、渡部、武藤の四人。
「こらぁ、お前たち。靴を揃えろ。脚下を照顧せよという言葉を知らないのか」
「この暑いのに、さらに暑苦しい演説を打って」
「本当だよね。地球温暖化の敵だよ」
「フフッ。京都議定書に抵触しそうですね」
「真夏日で、金柑頭に、蜃気楼」
「一句詠めたね。でも、俳句にしては、季語がバラバラだ」
「金柑は秋、蜃気楼は春ですからねぇ」
「えっ、そうなのか? どっちも夏の印象が強いんだが」
「季語は、実際の季節とはズレがあるものなんだよ、山崎くん」
「細かい技巧を気にせずに、感じたままに詠めば良いという俳人もいますから、参考程度に留めれば良いと思います」
「誰だっけなぁ。ほら、寝床で横を向いてる写真の人」
「視覚で覚えないで、文字で覚えようよ」
「正岡子規ですか?」
「そう、その人。たしか現代文で、河合がそんなようなことを言ってたじゃないか」
「そういえば、そういう話もあったね」
「一年生の頃の話ですね。よく覚えてましたね」
「それは、褒め言葉として受け取って良いのか?」
「裏返すと、よもや覚えてるとは思ってなかったってことだけど、どうなの?」
「ここは純粋に喜んでくださいよ、山崎さん」
「よっしゃあ」
「単純だねぇ」
「それは言わない約束ですよ、吉原さん」
「よぉし。水、出すぞ」
「今日は、金曜日だったよな?」
「そうだよ、山崎くん。この授業が終わったら、週明けの月曜から期末試験だね」
「お勉強の前に、クール・ダウンですね」
「うわっ」
「んくっ」
「冷たっ」
「おいこら、待て。そんな一瞬で、塩素が洗い落とせる訳が無かろうが。戻って来い」




