#059「長日短夜」
舞台は、寮の自室。
登場人物は、山崎、吉原、渡部の三人。
「用務員のおっちゃんが情報科の教員を兼ねてたり、食堂のおばちゃんが家庭科の教員を兼ねてたり」
「寮監が体育の教員で、保健医が保健の教員」
「初めは違和感があったけど、もう、すっかり慣れたな」
「ここでは、一人で何役も出来ないと困るものね。あっ、渡部くんだ」
「おかえり、渡部」
「ただいま。どうしたんですか? 二人とも体操服ですけど」
「中庭をショート・カットしようと思って、斜めに横切ってたんだけど」
「そこで水遣りをしていた園芸部長に気付かなくて、ホースの水をかぶってしまったって訳」
「そういうことでしたか」
「制服より、こっちのほうが涼しいから、着替えて正解だ」
「体操服のほうが過ごしやすい季節になったよね、山崎くん」
「ずいぶん陽が長くなりましたよね」
「朝は五時には明るくなってるし、晩は七時になっても暗くならない」
「もうすぐ夏至だね」
「そうですね」
「なぁ、渡部。それで、どうなったんだ?」
「主語が抜けてるよ、山崎くん」
「部活動の話ですよね? さすがに帰宅部は、公式のクラブとして認められませんでしたけど、仮入部の話は流れました」
「良かった」
「それを聞いて安心したよ」
「小さい頃の習い事や、中学時代のクラブについても聞かれたのですが」
「俺は、珠算と水泳部」
「僕は、学習塾と剣道部」
「間違いなかったみたいですね。山崎くんは、兄弟ともですよね?」
「そうそう。水泳は兄ちゃんに敵わないし、暗算は聡司のほうが早いから、途中から嫌になって辞めたんだ」
「渡部くんは、三人揃ってピアノとコーラス部だったんだよね?」
「そうです。姉がアルト、愛実がソプラノで、私はテナー。声変わり前は、ソプラノでした」
「音楽のテストで思ったんだが、高音だけじゃなくて、低音も出るんだな」
「音域が広いよね」
「それほどでもないですよ」
「それほどでもあるって。普段の声と全然違うから、驚いたんだ」
「姿を見てなかったら、別人だと思うよね」
「大袈裟ですよ。話を変えますけど、二人の制服は、どこにあるんですか?」
「園芸部長の部屋だ」
「洗って返すって言い張って譲らないものだから、預けてきたんだ」
「あとで取りに行くのですか?」
「いや、持って来てくれるらしい」
「そこまでしてくれなくても良いのにって、一度は断ったんだけど、押し切られたんだ」
「責任感が強いんですね」
「それと、上級生が怖いっていうのもあるだろうな」
「恐れることないのにね」
「でも、上級生に何をされるか分からないって気持ちは、よく分かります。私も昨年度は、三年生が無性に恐ろしい存在に感じていましたから」
「何で、あんなにおっかなかったんだろうな」
「わからないよね」
「何事も、慣れですね」




