#056「虹色球体」
舞台は、寮の洗濯場。
登場人物は山崎、渡部の二人。
「洗剤を入れ過ぎたみたいだな」
「濯いでも濯いでも、泡が消えませんね」
「この盥の液で、シャボン玉が遊べそうだな」
「ストローの先に切れ込みをいれて、花びら状に開いたものが欲しいですね」
「あと、針金ハンガーを曲げて、丸い枠を作ったものも欲しいな」
「欲張って大きなシャボン玉を作ろうとすると、すぐに割れるんですよねぇ」
「そうそう。洗剤を多めに入れたほうが、大きなシャボン玉が出来るんだけど、使い過ぎて怒られたんだよなぁ」
「界面活性剤による、表面張力の限界に挑戦してたんですね」
「難しい理論は、知らないけどさ。兄ちゃんの奴、三人でやったことなのに、俺と聡司のせいにするんだからなぁ」
「あらあら。酷いお兄さんですね」
「まぁ、お互い様だけどな。今週一週間、こうやって放課後に手洗いしなきゃならないとは、とんだシャボン玉ウィークだよなぁ」
「フフッ。ホリデーではないんですね」
「落花生と熱狂した猫たちがお送りするのか? ――シャボン玉、飛んだ」
「屋根まで、飛んだ」
「屋根まで、飛んで」
「こわれて、消えた」
「何とか明日にでも、洗濯機が直らないかなぁ」
「困りますよね。この時期は、お洗濯物が多いのに」
「まったくだ。――シャボン玉消えた」
「飛ばずに、消えた」
「うまれて、すぐに」
「こわれて、消えた」
「シャボン玉の、何ともいえない儚さを感じる歌だよな」
「そうですね。真偽は不明ですが、一説では、作詞家の野口雨情が、夭逝した子供へのレクイエムとして書いたとされています」
「レクイエム。……鎮魂歌だっけ?」
「そうです。文字通り、死者の魂を鎮める歌ですね。古くから多くの音楽家が作曲しているんです。特に、モーツァルト、ヴェルディ、フォーレの三人が作曲したレクイエムは、三大レクイエムとして有名ですよ」
「安らかに眠りたまえって訳か。――かーぜ、風、吹くな」
「シャボン玉、飛ばそ」




