#054「知能指数」
舞台は、食堂。
登場人物は、山崎、吉原、渡部の三人。
「カレーには、福神漬けが欠かせないよな」
「縁起の良い食べ物ですよね」
「七福神に肖ってるんだよね」
「どの辺が恵比寿で、どの辺が大黒なんだ?」
「どれが何に対応するかは知りませんけど、瓜、蕪、紫蘇、大根、茄子、鉈豆、蓮根の七つの材料を、一つの醤油漬けにした物が元祖だと言われています」
「混ぜ合わさった状態で一緒に食べられなくて、料理の具材別に選り分けてたら、お爺さんに怒られた覚えがあるなぁ」
「煮物とか、サラダとかでも言えそうだな」
「食材を推理したくなる気持ちは、よく分かります」
「行儀が悪いのは、百も承知なんだけどね」
「仕組みを知りたいって気持ちは、悪いことじゃないんだけどなぁ」
「探究心は、必ず将来の役に立ちますよ、吉原さん」
「そうかなぁ」
「というより、役に立てろよ。将来の話で思い出したけど、今日の授業でやった、人生における三つの目標の話について、どう思った?」
「向こう三ヶ月の短期目標、三年先の中期目標、これから三十年の長期目標を設定しようという話でしたね」
「それで、時々、それを見直して軌道修正していくんだよね」
「来月の期末試験だって、どう乗り越えたものかと思ってるのに、三ヶ月先まで決めろと言われてもなぁ」
「社会人と生徒では、時間の捉えかたが大きく違うんでしょうね」
「まぁ、そのあとの模試の話に集中させるために、漠然とした不安を煽っておいただけなのかもしれないけどね」
「今更こんな質問をするのは、俺もどうかと思うんだが」
「何ですか?」
「もしかして、偏差値のこと?」
「そう。そもそも、偏差値って何なんだ、渡部?」
「学力偏差値は、得点から平均点を引いた値を標準偏差で割って、その値を十倍して五十を加えて求める値です。早い話が、全国平均から、どれくらい離れた位置にいるかということです」
「補足しておくと、平均点は、得点をすべて足し、人数で割って求める数値。標準偏差は、各数字から平均値をそれぞれ引いて、その数字をそれぞれ二乗して、求めた各数字を全て合計して、その数字を人数で割って、さらにその値の平方根を求めることで得られる数値だよ」
「……紙に書いて説明してくれ」
「あとで、具体的な数字と一緒に説明しますね。とりあえず、平均が五十だということだけは、頭に入れておけば良いと思います」
「平均を百に合わせると、アイ・キューだよ」
「百三十以上でハーバードとかいう、アレか?」
「ソレです」
「アレとか、ソレとか、指示代名詞で話すのは、賢い方法ではないと思うよ、山崎くん」
「俺だけ?」




