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#053「呉東呉西」

舞台は、食堂。

登場人物は、山崎、吉原、渡部、三好の四人。

「三好さんは、富山県のご出身なんですね」

「そうなのよ。渡部くんは、富山県と聞いたら、何を連想する?」

「ステレオタイプですけど。勤勉。努力家。合理主義。置き薬売り。昆布が好き。鱒寿司の味に煩い。お祝いや引き出物の定番が、鯛を模った大きな蒲鉾。持ち家率と降水日数が、日本一多い。こんなところでしょうか?」

「おおよそ、間違ってないわね。あと、誤解されやすい方言が多いの」

「ありがたいは、感謝の意味ではないんですよね?」

「富山でありがたいと言えば、眠いって意味なの」

「ありがとうと言いたい時は、何て言うんでしたっけ?」

「普通は、気の毒なって言うわね。関西弁みたいだけど、つかえんって、どういう意味か知ってる?」

「使用できない訳では無いんですよね。つかえない、支えがない、支障がない」

「そう、そう。近いわ。構わないって意味なの」

「ゆっくり推測すれば、理解できなくは無さそうですけど、唐突に言われたら、判断できませんね」

「何でそう言うか、どうしても分からないものも多いわ」

「例えば、どういう方言ですか?」

「奢ることを、だくと言ったり、二男以降の男兄弟を、おっさんと言ったり、挙げれば限がないわ」

「お坊さんのことを、おっさんということはありますけど、どうして二男以降の男兄弟をそう呼ぶんでしょう」

「法事と家督が、何か関係しているかもしれないね。法事で思い出したけど、正座することを、ちんちんかくと言ったり、おはぎのことを、半殺しと言ったりもするわ」

「おはぎを半殺しと言うのは、おそらく小豆の状態からでしょうね。粒を残さず全部漉してしまうことを、皆殺しと言いますし」

「どっちが語源か分からないけど、その辺が近そうね。――おや、何してるの、そこの二人」

「山崎さんに、吉原さん。そんなところで、隠れん坊ですか?」

「違う違う」

「怪しい言葉が飛び交ってたから、入るタイミングを見計らってたんだ」

「まぁ、途中から聞いてたら、何の話かと思うわね」

「方言は、一種の符丁ですね」

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