#048「喧々囂々」
舞台は、吉原家。
登場人物は、吉原、一生、敏子の三人。
「先週は、思わぬ足止めを喰らったな、敏生」
「はい。突然の暴風雨で、船が全便欠航になりましたから」
「でも、良かったわ。今週は、こうして元気な顔を見られて」
「元気なだけではいけない。高校生の本分は、学業であるからして、優秀な成績を修めるために、弛まぬ努力をしなければならない」
「はい。肝に銘じます」
「そんなに気を張らなくても良いのよ、敏生。今でも、十分、頑張ってるんだから。ほら、見て。この前のテストだって、満点だったのよ」
「いつもながら、小テストは満点だな。しかし、これに甘んじてはいけない。常に高みを目指すことが重要だ」
「はい。この次も、満点を目指します」
「満点を目指すのはいいけど、無理しちゃ駄目よ。そりゃあ、良い成績を修めてくれれば、親として嬉しいし、鼻が高いわ。でも」
「敏子。あまり敏生を甘やかさないでくれ。目の前の課題から目を逸らしたり、嫌なことから逃げるようになったら、恥ずかしくて社会に送り出せなくなるんだからな」
「吉原家の長男として、社会に出ても恥ずかしくない人間になります」
「偉いわね。でも、気負わなくても大丈夫よ」
「敏子。敏生が図に乗るから、適当に褒めるんじゃない。これは、当然のことなんだから」
「あら、当然でも、できたことは褒めるべきじゃありませんか」
「家庭教育というものが、何も分かってないな」
「一生さんこそ、お分かりにならないじゃありませんか」
「何をっ」
「いつだったか、学友は成績や家柄で選ぶべきだ、なんておっしゃったじゃありませんか」
「当たり前だろう。朱に交われば赤くなる、だ。出来の悪い人間と一緒にいれば、一緒にいる人間の出来まで悪くなるものだ」
「ご自分の学の無さに対する劣等感を、息子で晴らそうすることには、感心致しません」
「今、俺のことは関係ないだろうがっ」
「いいえ。関係大有りです」
「フン。好き勝手させて、あとで悔やむことになったって、手遅れなんだからな」
「自由を奪って、あとで反抗されたら、それこそ手遅れよ」
「やめてよ。僕のことで言い争わないで」




