#044「罪業刑罰」
舞台は、図書室。
登場人物は、山崎、吉原、渡部の三人。
「今日は何を読んでるんだ、渡部?」
「ドストエフスキーの『罪と罰』です。読んでみますか?」
「遠慮しておく。活字を見続けると、猛烈に眠くなるんだ。どういう話か、ダイジェストを教えてくれ」
「頭脳明晰ながら、貧しい暮らしを送っている青年が、自分がお金を借りている高利貸しのお婆さんを、独自の犯罪理論に基づき、強盗殺害をする計画を立てるんです」
「青年は、何で高利貸しを殺そうとするんだ?」
「青年は、選ばれた優秀な人間は、新たな世の中の成長のためであれば、社会道徳を踏み外すことが許されていると考えているのです。あくまで青年は、殺害後に奪うお金は、社会を善くするために使うつもりです」
「いかにも、頭でっかちな人間の考えそうなことだな。それで、計画は実行したのか?」
「お婆さんを、持参した斧で撲殺して、お金を奪うところまでは、計画通りにいったのですが、そこにお婆さんの義理の妹さんも現れたので、咄嗟の勢いで、その妹さんも殺害してしまうんです」
「杜撰な計画だったんだな。それから、どうなったんだ?」
「青年は、罪の意識や、幻覚、自白の衝動に苦しむことになります。このあとに紆余曲折あって、自殺を考えるのですが、最後には、ある少女の助けを借りて、自首します」
「その、ある少女ってのは誰なんだ?」
「そこは、説明すると長くなりますから、実際に読んで確かめてください。はい、どうぞ」
「こんな分厚い本、読み通す自信ないって。俺にとっては、拷問に近い」
「殺人とか、拷問とか、物騒な言葉が飛び交ってるけど、何の話?」
「吉原さんは、この本を読んだことはありますか?」
「渡部が、俺にその本を読ませようとするんだ」
「タイトルは聞いたことがあるけど、実際に読んだことはないよ。まぁ、殺人の罪にしても、拷問の罰にしても、どちらも嗜虐心から来るものだと思うね」
「嗜虐心にしても、被虐心にしても、度が過ぎてはいけませんね」




