#042「枕上談話」
舞台は、寮の自室。
登場人物は、山崎、吉原、渡部の三人。
「やらなくていいことや、やりたくないことをやらせて、やりたいことができないことが当たり前だと思い込まされれば、誰だって、やる気を削げてしまう。そして、いざ、やりたいことが決まっても、すぐに行動するのを躊躇うようになるんだ」
「不可能な理由を挙げて、自分の気持ちに折り合いをつけるのが当然だという風潮があるよね」
「相手が望むことをさせる代わりに、交換条件として自分がしたくないことを押し付ける人間が多いですよね」
「そんな大人の背中を見て育てば、大人になりたいと思わない子供が増えたって、何の不思議はない」
「提案は、受け止めて検討するけど、過去の実体験に基づく価値観の押し付けは、全力で抵抗したいところだね」
「善意から来るのでしょうけど、ありがた迷惑で、大きなお世話ですよね」
「自分がやってることや言ってることが、本当に相手のためになってるか悩んでるうちは、正常なんだろうが」
「自分が正解だと勘違いしてやまない人間は、異常だよね」
「賢者は歴史にも学び、愚者は経験にのみ習う」
「それだな」
「指導者に学習能力がなかったら、被指導者が無関心になるのも、やむを得ないよね」
「支配者の理屈の大半は、子供の我が儘みたいな理由ですよね」
「何で、それが罷り通るんだろうな」
「明治維新による急速な西洋化の弊害かもよ?」
「中世封建体制から、一足飛びに近代化しましたからね」
「きっと、その時点で、西洋の物なら何でも良いと思うようになってしまったんだろうな」
「今でも、舶来品とカタカナ語には弱い日本人は多いもんね」
「肩書きや箱書きに弱いのは、江戸時代以前からですけどね」
「肩書きが立派な人間に限って、中身はスッカラカンだったりするけどな」
「僕のお父さんも、キャリア組の夜郎自大さには、忸怩たる思いをしているみたい。口先だけで何もできない臆病者で、教科書の内容を碌に理解せず、そのまま暗記してきたような人間ばかり。汚れ仕事を自分たちに押し付けて、上がった成果を横取りするんだって」
「それを直接、本人たちに伝えられたら良いんですけどね」
「結局は、いちゃもんをつけてる側も、保身に走る小心者に変わりないってことだな。あぁ、いや。それが駄目だとは言わないぜ、吉原」
「気を遣わなくて良いよ、山崎くん。その通りだもの」
「家族のため、会社のため。口では、世のため、人のためと言いながら」
「結局は、すべて自分のためだよな。電気、消すぞ」
「おやすみ」
「おやすみなさい」




