#040「独立自尊」
舞台は、トイレ。
登場人物は、山崎、吉原、渡部の三人。
「蓋付きの回収ボックス」
「黄色いネット」
「夕方、日が暮れてから出して、夜に回収するようにすれば、烏の被害に遭わなくて済むのにね」
「朝、ゆっくり出来ますし、夜中のほうが交通量も少ないですよね」
「そもそも、何で朝早くに出さなきゃいけないんだ?」
「人通りの少ない収集所だと、放火やゴミの持ち去りの心配があるし、夜は音がよく響くから、回収トラックの騒音が気になるし、何よりも人件費が高くつくっていうのが、朝に出して昼までに回収する理由みたいだよ」
「最初の理由と、最後の理由が矛盾しませんか? ゴミ収集車が巡回していれば、人目がある訳ですから、放火やゴミの持ち去りは出来ませんよ」
「防犯対策の費用も兼ねてるとしたら、人件費が高くつくことは、帳消しになるだろう。たまに思い出したように拍子木叩いて回るより、よほど効果がある」
「僕も、気温が上がる日中にゴミが無いほうが、衛生面でも、景観面でも、利点が大きいと思うね」
「夜勤で働いているかたにとっても、夕方に出すほうが有り難いでしょうね」
「出勤前に出すほうが、夜勤明けに急いで帰って出すよりも良い」
「行政は、旧套墨守しやすいから」
「やりかたを変えると、手数が増える上に、周囲の不評を買うんですよね」
「古臭いしきたりに囚われて、融通の利かなくなってるだけじゃないか」
「みんながみんなそうだとは言わないけど、そういうところが多いのは事実だよね」
「官僚型組織の、制度上の欠点ですね」
「だから公務員は、とは言わないが」
「いや、言って良いよ。僕のお父さんも、よく職場の不平不満を言ってるから」
「家族に言わないで、同僚や上司に言えると良いんですけどね」
「まったくだな。――よし。こんなもんで良いだろう。デッキ・ブラシとホースを片付けるぞ」
「こうやって、生徒が学校を綺麗にする習慣は、世界では珍しいんだよね、渡部くん?」
「そうですよ、吉原さん。専門の清掃業者に委託することが、グローバル・スタンダードです」
「スタンダードではないけど、日本の掃除習慣は、世界から高評価されてるんだってな」
「あるところでは当たり前のことが、別のところでは在り難いことなんだよね」
「日本人は、自国の文化に、もっと自信や誇りを持って良いと思います」
「行き過ぎて、自己中心主義者にならないようにしないとな」
「虚栄になってもいけないけど」
「卑屈になってもいけませんね」




