#003「自由競争」
舞台は、渡り廊下。
登場人物は、山崎、吉原、渡部、武藤の四人。
「襟のホックに、ワイ・シャツの第一ボタン。髪の色に、ピアスに、ベルトのバックル」
「風紀違反、取締り強化期間ですね」
「吉原も、腕章を付けて頑張ってるみたいだな」
「風紀も、大変ですね」
「保健だって、毎朝、ご苦労なことをしてるじゃねぇか」
「健康調査票の提出ですか? 風邪を引いたり、怪我をしたりしたのならともかく、健康に問題がなければ、特に書くことはありませんよ。室長の仕事のほうが、面倒ではありませんか?」
「週に一度、室長会議に出るだけだ。不祥事がなければ、何も話すことがないから、すぐに終わる」
「でも、大人しい生徒ばかりではありませんからね。ほら」
「こらぁ、そこの金髪。黒く染めて来いと言っただろうが。それから、そこの赤服。ボタンとホックを締めるように」
「タコ頭の武藤寮監が吼えてるな」
「真っ赤に茹で上がってますね」
「服の乱れは、すなわち心の乱れである」
「それなら、髪の不足は、頭の不足なのか?」
「フフッ。遠目で見ていると、おかしな光景ですね」
「寮生の第一意義が学業なら、勉強さえ出来れば、どんな格好をしてようと良いはずなのにな」
「そうですね」
「こうしなければいけないって押し付けられると、反抗するんだが」
「いざ、好きにして良いってことになると、似たり寄ったりになるんですよね」
「週末に一時帰宅する時の服が、その良い例だな」
「大雑把に分けて、スポーツ系、カジュアル系、フォーマル系の三タイプですね」
「鞄も、そうだ」
「大半は、リュックか、メッセンジャー・バッグか、トート・バッグか、ですね」
「一時は奇抜な格好をしてみても、結局は無難な線に落ち着くんだ。目くじらを立てずに、長い目で見てやれば良いのに」
「遅くても五月の連休明けぐらいには、寮生活に馴染んでますよね」
「二人とも、ここに居たんだ」
「お疲れ、吉原」
「お疲れさまです、吉原さん」
「もうすぐ、教官がこっちに来るよ」
「おっと。そいつはいけねぇな。移動するか」
「そうしましょう。風紀チェックと見せかけて、部活の勧誘をされたくありませんからね」