#038「清濁併呑」
舞台は、寮の自室。
登場人物は、山崎、吉原、渡部の三人。
「最近、世の中が極度に清潔志向に傾いていると思うんだよね」
「無実潔白な聖人君子を望みすぎてる嫌いはありますね」
「そんな潔癖な人間、信用できないけどなぁ」
「権力を握った途端に、豹変する人間も多いよね」
「それが、その人間の本性なんでしょうね」
「賄賂が横行するのは、どうかと思うけど、こうも揚げ足取りが多いと、新しいことに挑戦する気が失せる」
「白河の、清きに魚も、住みかねて」
「もとの濁りの、田沼恋しき、ですね」
「あぁ、それ、聞いたことはあるな。どういう意味かまでは、理解できなかったが」
「元、白河藩主だった松平定信は、それまでの田沼意次の利権政治を全面否定して、クリーンな政治を目指したんだけど」
「倹約令が厳しかったり、倫理道徳にうるさかったりで、庶民には生活しづらいこと、この上ないので」
「昔のほうが良かったって訳か」
「田沼意次は、それまでの緊縮財政や農業一本槍だった政策を修正して、商業を重視した政策で景気刺激を行ったんだ。結果として、様々な利権が発生して、不正蓄財をしたと言われるんだけど」
「自由で景気が良かった田沼時代のほうが、庶民も豊かだったから、今となっては懐かしいと訴えているのです」
「程々の人間は居ないんだなぁ」
「昭和の政治家にも、同じような対立があったよね?」
「角福戦争ですか? 三角大福のうちの二人ですけど」
「何だ、その美味しそうな名前は?」
「学歴はないけど、人心掌握に長けた人物か」
「それとも、クリーンな政治を目指す、エリートか」
「どっちか選べって言えば、前者かな。賢すぎると、親身になってくれない気がする」
「僕も、前者を選びそう。でも」
「税金を無駄遣いされたくはないんですよね」
「今は無駄に思えても、後々生きてくる可能性が無い訳ではないだろう?」
「それも、一理あるんだけど」
「赤字を抱えている段階で、そんなことする余裕はないはずですよね」
「結局、心にゆとりがないと、何も出来ないんだな」
「年々、他人に対する許容範囲が狭くなってるね」
「地球上の平地面積に対する、一人あたりの平均占有面積と同じですね」
「産めよ増やせよの時代でもないだろうに」
「結婚十訓かな?」
「それとも、創世記ですか?」
「質問されても、答弁致しかねます、だな」




