#036「乱層積雲」
舞台は、寮の自室。
登場人物は、山崎、吉原、渡部の三人。
「ちょっと、タオル取ってくれるか?」
「派手に濡れたね。傘を持ってなかったんだ」
「はい、タオル」
「サンキュー」
「着替えたほうが良いよ」
「鞄も、中身を出したほうが良さそうですね」
「服は、このままで良いだろう。でも、鞄の中身は出しておくか。一時間ぐらい前までは晴れてたのになぁ。通り雨か?」
「そんなところだろうね。折りたたみを一本、入れておけば良いのに」
「急に降られると困りますからね。新聞を敷きましたから、ここに鞄の中身を出してください」
「教科書は教室に置きっぱなしだから、ノートぐらいしかないな」
「あと、プリント類が多いね。この際だから、要らないプリントは、捨てたほうが良いよ」
「小テスト、連休中の臨時便について、計算用紙、春休みの過ごしかた。どれも、必要ないものですね」
「全部、捨てるか。おっ。こんなものまで入れてあったか」
「あぁ、偏愛地図。オリエンテーションで書いたものだね」
「班で自己紹介するときに、回したんですよね。私も、まだ持ってますよ」
「吉原は?」
「あると思うよ。たしか、こっちのファイルに……」
「ありましたよ、山崎さん」
「そうそう。渡部のは、イラストが中心だったんだ」
「僕も、あったよ」
「吉原さんのは、ジャンル別の箇条書きでしたね」
「俺は、そういう風に系統立てて書けないから、どうしても蜘蛛の巣状になってしまうんだよなぁ」
「こういう形でも、趣味の傾向は分かるよ」
「音楽関係が多いですよね。あと、漫画も」
「店ではビー・ジー・エムとして、ラジオを流してるし、一人客用に、漫画を置いてあるからな。吉原は、メカニックが好きだよな」
「機械を見ると、構造が気になるんだ。古い時計とか、壊れたオーディオとか、捨てる前に分解するのが習慣でね。渡部くんは、シックだよね」
「初対面の人に見せるということもありますから、控え目にしたんです」
「それでも、文化の匂いは、隠し切れなかったみたいだな」
「育ちの良さが滲み出てるよね」
「何だか、気恥ずかしくなってきました」
「それじゃあ、この話は、この辺で。ブシッ」
「ほら。横着して着替えないからだよ」
「風邪引きますよ?」
「平気だって。丈夫に出来てるから」
「何とかは風邪引かないって言うもんね」
「失礼ですよ、吉原さん。夏風邪は、何とかが引くとも言います」
「遠回しに馬鹿にするな」




