#034「容量不足」
舞台は、寮の自室。
登場人物は、山崎、吉原、渡部の三人。
「聞いた、覚えた、書いた」
「古代ローマ皇帝の名言みたいになってるよ、山崎くん」
「カエサルが言った、ウェーニー・ウィーディー・ウィーキーですね」
「もう駄目。脳味噌が、シュール・レアリズムの時計みたいになってる」
「テーブルの上で溶けたチーズみたいになってる、あの絵画だね」
「ダリの『記憶の固執』ですね」
「これ以上、何か詰め込んだら、鼻や口から出てくるかもしれない」
「そうなったら、もはや怪現象だよ」
「病院ではなくて、研究所に連れて行かれてしまいますね」
「ん? 渡部は、本を読んでたのか」
「今さらだね。気付いてなかったの?」
「テストが終わった解放感で、緊張の糸が緩んだんでしょうね」
「試験が終わったところだっていうのに、物好きだな。あぁ、いや。本好きか。それで、何の本なんだ?」
「文庫本だね」
「心理学の入門書ですよ。癖や仕草の原因や対処法について、色々と分かりやすく解説されているので、調べてみようと思ったんです」
「何を調べてるんだ?」
「何か、困った癖でも?」
「私、時々、笑ってはいけないところで笑いそうになることがあるんです。そこまで深刻に悩んでる訳では無いんですが、症状の名前でも分かればと思いまして」
「俺も、やっちゃいけないと思うと、やりたくなる気持ちは分かる。絶対に押すなってボタンがあったら、無性に押したくなるもの」
「得てして、そういうボタンは赤色なんだよねぇ」
「どうやら、そういう症状は、心理学ではカリギュラ効果と呼ぶそうです」
「カリ、何だって?」
「カリギュラ効果」
「以前、そういうローマ帝国の皇帝、カリグラをモデルにした映画が作られ、その内容のあまりに過激さに、一部地域で公開が禁止されたのですが、そのことで、かえって世間の注目を集めて話題になったことから、そう呼ばれるようになった、とのこと」
「吉原。俺の鼻から、脳漿が出てないか?」
「ギリギリ、セーフ。狂言にも、似たような演目があったような。附子って言ったかな?」
「あぁ。甕の中身はトリカブトだからと言われたけれども、それは嘘で、本当の中身は水飴だと知っているから、更に嘘で対抗する話ですね?」
「吉原。俺の耳から、白子みたいなのが出てないか?」
「あぁ、ちょっと、はみ出しそうかな。何とか、表面張力で持ちこたえてるよ」
「それでは、この辺にしておきますね。続きは、日曜日の夕方以降にしましょう」




