#032「梅雨前線」
舞台は、寮の自室。
登場人物は、山崎、吉原、渡部の三人。
「あーめが、降ぅーります」
「あーめが、降るぅ」
「おーもてに、行ぅーきたし」
「か、さ、は、な、し」
「傘を買えよ」
「今みたいに、ちょっと近くのコンビニまでって訳にはいかないんだよ」
「それにしても、シトシト、ジメジメ、いつまでも降るもんだな」
「武藤寮監の説教みたいだね」
「あれは、どっちかと言えば、ネチネチ、クドクド、だな」
「雷が落ちて終わりじゃないもんね」
「それにしても、この湿気は堪らない」
「僕も。前髪が垂れてきて、鬱陶しくて仕方ない」
「先週末に切るって言ってなかったか?」
「行きそびれたんだ。中途半端な長さになっちゃったなぁ」
「俺が格好良く切ってやろうか?」
「嫌だよ。山崎くんみたいな髪型になりそう」
「何で俺と同じじゃ嫌なんだよ。良いから、任せろって」
「待って。鋏を置いて」
「ただいま。……これは、どういう状況ですか?」
「山崎くんが、僕の静止を無視して切り掛かってきたんだ」
「誤解を招くような言い方をするな。前髪が鬱陶しいって言ったのは、吉原のほうだろうが」
「山崎さん。吉原さんは嫌がってるようですので、とりあえず、鋏を仕舞いましょう」
「何だよ。人が親切に切ってやろうって言ってるのに」
「そういうのを、親切じゃなくて、お為ごかしって言うんだよ」
「下手に切ると、チンチクリンになりますし、伸び始めは、括ったり留めたり出来ませんから厄介ですよね」
「おまけに、癖毛だしな」
「うるさいなぁ。余計なお世話だよ。ん?」
「とりあえず、これで、こうして押さえておけば良いでしょう」
「渡部が、たまに風呂上りで使ってる奴だな」
「えっ、ちょっと、外して」
「あらあら。せっかく、うまいこと押さえられてたのに」
「似合ってたのにな」
「カチューシャが似合っても、嬉しくないよ」
「気に入りませんか? 茶色のもありますけど」
「あっ。そっちのほうが、良いかもしれない」
「いやいや。リボンが付いてるし」
「こんな小さいのは、ワン・ポイントですよ。さぁ」
「物は試しだもんな。おい、逃げるな」
「離してよ。二人して、僕を玩具にしないで」




