#028「人畜微害」
舞台は、寮の自室。
登場人物は、山崎、吉原、渡部の三人。
「おっ、吉原。暗号の解読か?」
「違うよ。これは、微分方程式。この前に習ったところじゃないか」
「こっちのエス字フックみたいな記号は何だ?」
「そっちは積分の記号だよ。数学の時間に寝てるから、分からなくなるんだよ」
「眠くなるような授業をするほうも悪い。それにしても、暑いな。本当に五月か?」
「初夏の陽気だね」
「窓、開けるぞ?」
「どうぞ」
「あぁ。思ったより、風が弱いな。それにしても、今からこの暑さだと、夏本番が思いやられるなぁ。夏場は、上段に熱気が溜まるから嫌なんだ」
「下段は下段で、冬場、冷気が溜まりやすいけどね」
「油照りに底冷え」
「ここは、千年の都なの?」
「あと、窓には網戸が欲しいな。柵はあるが、雨戸もカーテンもないんじゃあ、いくら磨りガラスでも、外からの視線が気になるし、何より、虫が入ってくる」
「体温が高くて、汗っかきな誰かさんは、蚊から集中砲火を浴びせられるもんねぇ」
「俺ばっかり刺しやがって。貴重な血液を返せ」
「血の気が多いから、丁度良いんじゃない?」
「良くはない。同じ塗り薬を、同じように塗ってるのに、俺にだけ寄ってくるんだぞ? 虫けらの癖に、選り好みしやがって」
「一寸の虫にも、五分の魂と言いますよ、山崎さん」
「おかえり、渡部くん」
「これはまた、分厚い本を借りてきたんだな」
「最近、文庫化されたんですけど、蔵書には全集にしかなかったんです。仕方がないので、全集で読むことにしました」
「渡部くんも、好きだねぇ」
「すっかり、本の虫だな」
「害虫ですか、益虫ですか?」
「知識が役立つ時もあるけれど」
「たまに、話が熱を帯びて、暴走することがあるからなぁ」




