#026「師弟反転」
舞台は、保健室。
登場人物は、渡部、堀の二人。
「失礼します。堀先生。健康調査票です」
「あぁ、渡部くんか。ありがとう」
「今日は、ご在室なんですね」
「もしかして、昨日も来たのかな? そうだとしたら、ごめんね。この時期は、新入生からの相談が多いから、ここより、相談室にいることのほうが多いんだ」
「先生は、保健医であると同時に、カウンセラーでもありますからね」
「具合でも悪かったのかな? それとも、どこか怪我をしたとか?」
「いえ、私ではなくて、山崎くんが軽い捻挫をしたので、湿布か包帯でもあれば、と」
「どちらも、そこの戸棚にあるんだけど、見付けられたかい?」
「はい。すぐに分かりました。消耗分も、棚の上のバインダーにチェックして置きました」
「どれどれ。あぁ、本当だ。湿布が減ってる」
「毎朝、決まって確認しないと駄目ですよ?」
「生徒のほうから、そういう指摘されるとは思わなかったなぁ。僕も気を付けないと。あぁ、そうだ。そんなしっかり物の渡部くんに、一つ質問があります」
「何ですか、改まって。変な先生」
「これが身に付けば、晴れて一人前の大人だ、と思うものを、思いつく限り列挙してみてくれるかな?」
「まだ半人前の生徒に、答えが出せるとお思いですか?」
「渡部くんなら、分かるんじゃないかなぁ」
「天狗になりますから、乗せないでください」
「答えの見当は、もう付いてるよね?」
「付いてますよ。規範、利害、暗黙の了解、生産性、冷静な分別、社会との繋がり、安定。これくらいでしょうか?」
「この短時間で、七つも挙がるとは思わなかったよ。すごいね」
「それより、答えは何なんですか?」
「決まった答えは無いんだ。大人って、子供が考えるより、子供のままなんだ」
「いつまでも少年の心を忘れない、といった比喩ではなくですか?」
「比喩でも何でもないよ。大人になれば分かる、かも」
「歯切れが悪いですね」
「二十歳はとっくに過ぎた今の僕より、今の渡部くんのほうが大人だと思ってね。自信の無さは、そこからだよ」
「先生は先生なんですから、もっと自信を持ってください」
「努力します。ヘヘッ。これじゃあ、どっちがカウンセラーか分かんないや」




