#025「解答欄外」
舞台は、教室。
登場人物は、山崎、吉原、渡部の三人。
「英語は、映画『独裁者』のラストで登壇した、チャップリンの演説」
「日本史は、終戦の勅諭。いわゆる、玉音放送」
「政治経済は、日本国憲法の前文」
「どれも、長文ですね」
「暗誦しろっていう訳じゃないから、まだ助かるけど」
「何で、一度に重なるかなぁ。頭がパンクしそう」
「山崎くんの場合、毎朝、パンクな頭だけどね」
「髪が寝癖で、四方八方に飛び跳ねてますからねぇ」
「話が違う方向に行ってないか?」
「人工衛星『あかつき』よろしくの軌道修正をしよう。面白いのは、どれも一九四〇年代に書かれたことだよね」
「一つの時代の転換点ですからねぇ」
「英語には、冒頭文から読めない単語があるな。これは?」
「英語は、渡部くんに任せる」
「エンペラー。皇帝です」
「このビジネスは、仕事?」
「ノット・マイ・ビジネスで、関係ないことだと考える、という意味です。だから冒頭二文は、申し訳ないが、私は皇帝になりたくない。それは私のやりかたではない。という訳になります」
「英語は渡部くんにまとめてもらうとして、あと二つのほうを見て行こう。こっちは日本語だから読めるよ」
「フリガナを振ってくれたのは助かるが、読めたところで、さっぱり意味が分からない。朕って何だ?」
「そこから? 天皇陛下の一人称だよ」
「『朕は国家なり』。世界史でも習いましたよ?」
「覚えてないなぁ。忘却の彼方だ。大体、古文も苦手なんだよ。活用とか、意味とか、区別する必要性を感じない」
「それなら、口語に近い、こっちから先に片付けよう」
「せめて一つは、再試験無しで通って欲しいですね」
「最初の文は、誰が、何を言いたいんだ?」
「日本国民が主語、だとおかしいな。全体の述語が、最後の確定するになるのも、変だ。あれ?」
「このあたりは、英語の直訳に近いですね。何々し、で一度区切ったほうが良さそうです。日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動する。日本国民は、我らと我らの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたって自由のもたらす恵沢を確保する。日本国民は、政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないやうにすることを決意する。日本国民は、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。こうすれば、同じ主語の繰り返しになりますが、すっきりするでしょう?」
「主語が省略されてたのか。日本語らしいな」
「極力、同じ言葉を繰り返さないのが、作文の基本だからとはいえ、意外な盲点だったなぁ」
「一つのことに囚われていると、周りが見えなくなりますからねぇ」
「枠の内側に篭ってないで、たまには外側から眺めてみないと、本当の姿が見えてこないのかもな」




