#024「仏蘭西流」
舞台は、渡部家。
登場人物は、山崎、吉原、渡部の三人。
「広々とした部屋だね」
「子供部屋や寝室はともかく、エル・ディー・ケーは、いつお客さんをお呼びしても良いように、掃除と整理整頓を心掛けてますから」
「部屋の中もそうだけどさ。俺、オート・ロックのマンションなんて、初めてだよ」
「そうでしたか。落ち着きませんか?」
「居心地は、悪くないんだけど」
「良くもないのですか?」
「いや、良いんだ。良いんだけど、寛いでいいのか疑問なんだよ」
「まぁ、紅茶を淹れましたから、リラックスしてください」
「うわぁ、高そうな食器」
「ワレモノ注意だな。この花は何だ?」
「そんなに鯱張る必要はありませんよ。それは、スミレの砂糖漬けです。食べても構いませんし、邪魔ならソーサーに避けても良いですよ」
「ケーキを作ってみたいと言ったのは、こっちだけど」
「まさか、渡部の住んでるマンションが、こんな高級物件だったとはな」
「大した建物ではありませんよ。それでは、本題に入りますね。今日は、これを作ります」
「カトル・カール?」
「早い話が、パウンド・ケーキです。フランス語で四分の四という意味で、卵、小麦粉、バター、砂糖の四つの材料を、それぞれ四分の一ずつ使うことから名づけられたお菓子です」
「パウンド・ケーキは、四つの材料を一ポンドずつ使うから、この名が付いたんだよね?」
「そうです」
「パウンドが正しいのか?」
「そうですよ。何か、腑に落ちない点でも?」
「俺、ずっとバウンド・ケーキだと思ってた。飛び跳ねたくなる美味しさってことで」
「フフッ。面白いですね」
「レシピを見る限り、材料によって分量がまちまちだね」
「言葉の意味通りに混ぜ合わせたら、糖質と脂肪の塊になりますから。モーパッサンもビックリです」
「モー、パッサン?」
「モーで切らないで。モーパッサンで一つの名前だから」
「『脂肪のかたまり』って題名の本があるんです。ご存じなかったようですね。紅茶のおかわりは、いかがですか?」
「もう、結構」
「もう、たくさんだよ」
「フフフ。それでは、カトル・カールを作りましょうか」




