#018「役所仕事」
舞台は、寮の自室。
登場人物は、山崎、吉原、渡部の三人。
「渡部くん。差別をなくすためには、どうすれば良いだろうかって、課題が出たのを覚えてる?」
「土地や、血縁や、文化の違いに偏見を持つのは止めましょうって話でしたね。それが、どうかしましたか?」
「本当に、それで解決になるのかなって思えてきて、しょうがなくてね」
「たしかに、現段階では机上の空論に終わりそうですけど、変わろうとしていけば、少しずつ改善していくのではありませんか?」
「渡部くん。心から、そう思ってる?」
「率直に言いますと、半信半疑ですよ。差別の解消に働きかけることで、逆に差別をしていた人間が差別されるようにならない、とは言い切れませんから」
「差別をする人間は、悪い奴だ。差別しないようにならないなら、追い出してしまえってことになりそうだよね」
「差別をするなんて許せない、と思った時点で、その人の中に一つの線引きがされる訳ですからねぇ。対立構造がなくならない限り、立場が入れ替わるだけになってしまうでしょうね」
「そして、終わらない泥沼復讐劇へ突入してしまう訳だ」
「猿蟹合戦のような話ですね」
「ただいま。いや、参った、参った。ムーン・ウォーク」
「おかえり、山崎くん」
「何かあったんですか?」
「奨学金について、兄弟三人で話を聞いてきたんだ。貸与式奨学金は、早い話が借金だから、よく考えて借りなければならないし、学費が払えないなら、払えるようになるまで待つのも手だし、何も現役入学に拘る必要はないっていうのが、俺の家側の共通意見だったんだけどさ」
「多少は無理をしてでも、現役入学を目指すべきだって、事務方に諭されたんだね?」
「そうなんですか、山崎さん?」
「吉原の言う通りだよ。自営業を何だと思っているんだか」
「いくら公立でも、進学実績を残さないと、生徒が集まらないからねぇ」
「特にこの学校は、広域から指定校推薦で集める方式ですからねぇ」
「事務方は、資金繰りのことしか頭にないのかっていうんだ」
「抑えて、抑えて。――推薦に通ったあと、校長の直筆署名入りの招待状が届いたのには、ビックリしなかった?」
「それで、どうすることになったんですか? ――あれは、驚きました」
「結論を保留して、日を改めてもう一度、話し合うことになった。――俺は、知ってたから、そこまで驚かなかった」
「先送りか。これは長引きそうだね」
「根負けして、降参するのを待つ。官僚型組織の常套手段ですね」
「俺は、負けないからな」




