#013「桃栗三年」
舞台は、図書館。
登場人物は、山崎、吉原、渡部、真鍋の四人。
「図書館で調べ学習かぁ」
「『いきの構造』についてだよね」
「とりあえず、ここまでで分かったことを、書き出してみましょう」
「まず、人間性一般に基づくものと、異性とのかかわりに基づくものの二つがあるんだったな」
「二つのそれぞれが、価値と非価値の二つに分かれ、更に、価値は有と反に、非価値は積極と消極に分かれる」
「人間性一般に基づくもので、有価値なのが上品、反価値なのが下品、積極非価値なのが派手、消極非価値なのが地味。異性とのかかわりに基づくもので、有価値なのが意気、反価値なのが野暮、積極非価値なのが甘味、消極非価値なのが渋味です」
「その八つの美意識を頂点とした直方体が、この図だな」
「対立する美意識二点は対角に配置され、頂面は、異性とのかかわりに基づくもので、対角線の交点をピーと、底面は、人間性一般に基づくもので、対角線の交点をオーとする」
「きざは、派手と下品を結ぶ直線で、さびは、意気、渋味、地味、上品、ピー、オーによる三角柱で、いろっぽさは、意気と甘味を結ぶ線と、ピーを通る平行線による長方形、または、派手と下品を結ぶ線と、オーを通る平行線による長方形で、シックは、意気と上品を結ぶ直線で、ラフィネは、意気、渋味、地味、上品による長方形で、雅は、上品、地味、オーを底面とし、渋味を頂点とする四面体で、乙は、意気、渋味、甘味を頂面とし、下品を底点とする四面体で、味は、意気、渋味、甘味による三角形で表される訳です」
「それから、横縞より縦縞のほうが、曲線より直線のほうがイキなんだよな」
「京のスイが、江戸のイキに繋がってるという記述もあったよね」
「……分かるような、分からないような話になってきましたね」
「もっと、分かりやすく書いて欲しいな」
「抽象概念だからね。具体例を挙げるのは難しいのかもよ?」
「学を衒いすぎですよ。伝わらなければ、無価値に等しいと思います」
「そうだ、そうだ。独り善がりだぞ」
「ここは図書館だから、小声で話してね」
「あっ、すみません、司書さん」
「真鍋司書は、この本を読まれましたか?」
「九鬼周造ね。読んだことはあるけど、理解できてるとは言えないわね」
「真鍋さんでも理解できないのに、私たちに理解させようだなんて」
「手に余るな」
「諦めるのは、早いんじゃないかしら。若いうちに色んな知識に触れるのは、大人になる過程で、とても大切なことなのよ?」
「理解できなくても?」
「今は、分からないだろうけど、ずっとあとになってから、そういえばこういう本があった、ああいうことが書いてあった。ふと、そんな風に思い出すようになるわ」
「それで良いんですか?」
「すぐに役に立つ本は、すぐに廃れるものなの。本に、即効性を期待してはいけないわ。何故かは分からないけれども、ずっと読み継がれている本は、あとになってからジワジワと効いてくるものよ。だから、焦らないことね」




