#011「粗忽兄弟」
舞台は、寮の自室。
登場人物は、山崎、聡司、吉原、渡部の四人。
「そろそろ、半袖の出番だな」
「日が射すと、暑いですよね。夏物を用意しないといけませんね」
「忘れないうちに、夏物を出しておこう」
「おっ、何だ? その、泥棒みたいな風呂敷は」
「失礼ですよ、山崎さん」
「唐草模様は、泥棒の専売特許じゃないよ」
「そうなのか? 口の周りを青々とさせた男が、盗んだ品物を包んで背負ってる印象が強いけどな」
「漫画やコントではないんですから。四隅には、桐が染め抜かれてますね」
「桐花紋だよ。丸に五三桐」
「五百円玉みたいだな」
「五十円硬貨の菊、百円硬貨の桜と並んで、昔から日本で親しまれている植物ですからね」
「紋章の意匠には、日本では植物が、欧米では動物がモチーフにされることが多いよね」
「平和主義の表れかもな」
「そうでしょうか? 生存戦略でいえば、植物のほうが計算高い気がしますけど?」
「時に植物は、動物より狡猾だからねぇ。陰湿な、底意地の悪さがあるよ」
「そういわれると、綺麗な花には棘があったり、毒を持ってたりするな」
「迂闊に手を出すと、痛い目に遭う訳です」
「むざむざと喰われる訳には、いかないものね。――誰か、ノックしてるよ」
「誰だろう? ――今、開けます」
「孝志兄ちゃん。ちょっと、失礼」
「何だ、聡司か。おい、勝手に入るな」
「いらっしゃい、弟さん」
「こんにちは、弟くん」
「こら。俺の荷物を漁るな」
「あぁ、やっぱり、ここにあった。これ、敦史兄ちゃんのだぜ?」
「本当。スカーフの色が、赤ではなくて緑ですね」
「弟くんは、ちゃんと青を選んでるのに。しっかりしないとね」
「敦史兄ちゃん、怒ってるぜ?」
「間違えたのは、兄ちゃんのほうだろう。俺は、残ったほうを持って来たんだからな。まったく。自分で間違えておいて弟のせいにするとは、短気だな」
「早とちりなのは、お互いさまではありませんか?」
「僕の上着を着て行ったことがあるもんね、山崎くん」
「面子を潰さないでくれ」




