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#112「紆余曲折」

舞台は、寮の自室。

登場人物は、山崎、吉原、渡部の三人。

「一日目に、新千歳空港からホテルに移動」

「ホテルで、レクリエーション大会」

「盛り上がりましたけど、小笠原先生は、長旅でお疲れの様子でしたね」

「二日目は、札幌市内を観光」

「時計台を見学して、クラーク像の前で、お決まりのポーズをして」

「再び観光バスで、ホテルに」

「三日目は、小樽市内を観光」

「お土産を買うのが、主な目的だったよね」

「ガラス・ランプやオルゴール、チョコレートやチーズなどを買いました」

「全部、郵便で送ってたが、結構な量を買ってたよな」

「また、家族の人に頼まれてたの?」

「そうなんです。配達料は着払いですし、お土産代は、あらかじめ受け取ってましたから、あとは指定の品を買うだけで済みました。私の勝手な都合で、また、あちこち連れ回してしまいましたね。ごめんなさい」

「着いたのは良いが、どこに行ったらいいか分からなかったから、かえって助かった」

「僕も、色んなところを巡ることができて楽しかったよ。でも、渡部くんは良かったの?」

「何がですか?」

「家の人に良いように使われるだけで、本当は満足してないんじゃないのかってことだ」

「渡部くん自身は、旅行を楽しむことができたの? 我慢してない?」

「愉快な三日間でしたよ。山崎さんが薄着のまま、窓の外にキタキツネを追いかけて行って、凍えながら帰ってきたり、鍵の閉じ込めかと思ったら、吉原さんの上着の内ポケットからカードが出てきたりで、退屈しませんでしたから」

「呼び寄せようとしたんだけど、ドラマや映画みたいにはいかないもんだ。渡部も、凍った道で、何度も転びそうになってたよな」

「結局、僕と山崎くんとで、両端から支えることにしたんだよね」

「凍結した路面には、四苦八苦しました。痣は完治しましたから、ご安心を」

「二泊目にも話したけどさ、入学してすぐには、こんな日が来るとは思わなかったよな?」

「山崎くんは、僕に嫌悪感を持ってたよね?」

「何かと、目の敵にしてましたね」

「吉原だって、渡部をライバル視してたじゃないか」

「羨ましさより、才能に嫉妬してたんだ。二年近く経った今だから、わかることだけどね」

「私も今だから言えますけど、山崎さんの言動には、とてもついていけませんでした」

「寮生活の始まりは、衝突続きだったな」

「波乱の幕開けだったよね」

「共感できない状態でしたからね」

「慣れって、すごいな」

「一歩間違えると、恐ろしい悪習や因習を生むけどね」

「人間、どんな理不尽な環境でも、認知不協和を合理化しようとするものですからね。負の連鎖を断ち切るには、参加させられた当初の嫌悪感を忘れず、次世代に引き継がないことが重要です。村社会や島国根性と呼ばれる閉鎖性や閉塞感は、旅人の不在による代謝不全から生じます。古くから行われてきた物事は、何でも伝統として引き継げば良いというものではなく、外からの意見を交えて見直すべきものです」

「窓を閉め切ったら空気が淀むし、水を替えないと虫が湧くもんな」

「流れがないといけないね」

「学校にも会社にも、卒業や退職の年が決まってるのは、流れを止めないためなのかもな」

「器は同じでも、中身を替えないとね」

「中身が変わらないと、器が駄目になりますからね」

「……高校生活も、あと一年と少しだな」

「何だか、しみじみするね」

「夕暮れは、センチメンタルを呼び起こしますね」

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