#110「灘菊酒造」
舞台は、教室。
登場人物は、山崎、吉原、渡部の三人。
「親が肩を揉めだの腰を押せだの言うと思ったら、昨日は勤労感謝の日だったのか」
「そうだよ、山崎くん」
「日頃の労働を尊び、一年の収穫に感謝する日とされています」
「やっぱり日本は、米作りが基本なんだな」
「主食だからね」
「うるち米だけではなく、もち米や酒米もありますよ」
「そうそう。新酒が出来ると、酒蔵の入り口に、でっかい毬藻みたいなものが吊るされるんだよな」
「酒林のことだね」
「以前、地場産業を調べた際に、清酒の醸造について詳しくなりましたよね」
「珍しく女性の杜氏が誕生したっていうことで、酒造りが話題になってたからな」
「社会見学ということで、三人で姫路にある酒蔵を訪れたよね」
「駅前通りが、お祭り仕様で幅広に作られていましたね」
「交通量が多い訳ではなさそうだったな」
「昼食は、駅からすぐのホテルだったよね」
「一階で、ビュッフェ・スタイルのランチにしましたね。それで山崎さんが、フフッ」
「恥ずかしいから、そこから先は言わないでくれ」
「慣れないことをするときは、知ってる誰かに聞こうね、山崎くん」
「ホテルのかたも、さぞかし驚いたでしょうね」
「話を戻すぞ。酒造りに使う稲は、普通より実が大きくて、削る割合によって名前が違うんだったな」
「一番多く削って精製したものが、大吟醸だったね。蒸したあとに麹菌を蒔いて発酵させるんだけど」
「麹菌は、パン作りでいうところのイースト菌にあたるものでしたね。デリケートで傷つきやすいので、杜氏さんは勿論、蔵人の皆さんも、お酒が完成するまでは、お漬物や納豆などの発酵食品を、一切口にしないということでした」
「働いてる人たちの大半は、農作を終えた出稼ぎで、冬のあいだ、住み込みで働いてるんだよな」
「清酒の産地として有名なのは、灘五郷だよね」
「今津、西宮、魚崎、御影、西の五郷ですね。良質なお米、清冽なお水、凛とした颪の三拍子が揃っているので、上等のお酒を生まれるのでしたね」
「灘の生一本っていうもんな」
「伏見の女酒と並んで、灘の男酒とも言うよ」
「前者が甘口で、後者が辛口と言われてますね」
「でも、見学した酒蔵は、灘という字が付くけど、甘口だって言ってたよな」
「でも、試飲してみないことには、実感はできないよ」
「大人になってから、再訪しましょうね。お酒は二十歳になってからと決まったのは、お酒の歴史に比べて、意外と新しいことも分かりました」
「江戸時代までは、五歳で袴を穿いたら男で、十五歳ぐらいで大人として認められてたんだったな」
「着袴と元服だね。飲酒が二十歳からと決められたのは、明治時代の中期だったよね」
「明治二十九年ですから、一八九六年です」
「煙草や大麻に比べると、古いけどな」
「禁煙や麻薬撲滅の運動と比較するには、性格が違いすぎるよ」
「身体に悪影響を及ぼす危険があるから禁じているのに、より刺激や有害性が強いものに走ってしまっては、本末転倒です」
「何事も、程々にしないとな」
「それ、ビュッフェで学んだこと?」
「好きなものを、好きなだけとは言っても」
「アー、アー、アー。それ以上は、いけない」




