#109「合縁奇縁」
舞台は、寮の自室。
登場人物は、山崎、吉原、渡部の三人。
「僕の話は、よくある話だよ。お父さんが肝炎を発症してね。初めは自宅で安静を命じられてたんだけど、無理して働いたせいで改善しないものだから、入院させられたんだ」
「大事をとって、ゆっくり休めば良さそうなものですけど、そうもいかない事情を抱えてたんでしょうね」
「でも、そこまで来ると落ちが読めたぞ。そのときに世話をしたのが、今の吉原の母ちゃんだったんだな?」
「その通り。ねっ、よくある話でしょう? ちなみに二人は同い年。でも、学年でいうと、お母さんのほうが一学年上だよ」
「でも、肝炎にならなかったり、最初から安静にしていたり、別の病院に入院していたりしたら、吉原さんは産まれなかった訳ですよね?」
「そうだ、そうだ。よくある話で片付けるのは、両親に失礼だ」
「わかった。そこは撤回するよ。最後は、渡部くんの番だよ」
「父との電話口では、微に入り、細を穿った、長大なラブ・ストーリーを聞かされたのですが、大半は惚気話ですので、適当に端折って、骨子だけをお話しますね」
「壮大なスケールの話になりそうだな」
「期待が高まるね」
「ご期待に添えますかどうか。母は、今でこそ専業主婦として、家事業に勤しんでますけど、結婚前は飛行機の客室乗務員をしていました」
「シー・エーだな」
「採用条件が厳しくて、採用試験は難関だっていうよね」
「狭き門であることは、昔も今も変わりません。余談ですが、現在ではフライト・アテンダントや、キャビン・アテンダントと呼ばれていますが、母の勤務当時は、テレビ・ドラマの影響もあってか、スチュワーデスという呼びかたが、広く一般に親しまれていました」
「聞いたことあるな、その言いかた」
「女性差別に繋がる言いかただから、撤廃されたんだよね」
「横道に逸れたので、本筋に戻しますね。ここまで話せば、予想が立ったことだろうと思いますが、父が乗客として母に一目惚れしたのが、二人の恋の始まりです」
「そりゃあ、美人な上に、賢いとくれば、誰だって射止めたくなる」
「身も蓋もない言いかただね、山崎くん」
「それから、父の猛アタックが始まりました。詳細は省きますが、空港の受付で、母の勤務シフトを聞き出そうとするほどの熱の入りようでした。母は、父の再三再四にわたる、ストーカー紛いとも思えるほどのしつこいアプローチに根負けする形で、プロポーズを受けたそうです」
「よく、訴えられなかったもんだな」
「一歩間違えたら、精神病院か法廷に行かなきゃいけなくなるところだよね」
「ノーとは言わせないテクニックがあるんです。半分以上、聞き流しましたけどね」
「それにしても。恋愛から今に至るまで、色んなエピソードがあるもんだな」
「家族の形は、家庭の数だけあるものだね」
「自分の家では当たり前のことでも、世間では非常識だと考えられていることは、意外と多いですよね」
「不思議なものだな。――話も終わったし、電気を消すぞ。おやすみ」
「おやすみ」
「おやすみなさい」




