#100「通過査証」
舞台は、波止場
登場人物は、山崎、吉原、渡部の三人。
「そう考えると、コンビニの看板って、国旗みたいな色だな」
「緑、白、青の三色は、シエラレオネ。黄、緑、赤の三色は、リトアニアですね」
「シンプルなデザインにすると、どうしても似てしまうんだろうね」
「シオレ、何だって?」
「シエラレオネ。西アフリカにある共和国だよ」
「帝国主義の時代に、欧州列強の植民地支配を受け、一九六一年にイギリスから独立しました」
「それ、授業でやったか?」
「地理と世界史の両方で習ったよ」
「その様子ですと、以前にリトアニアについてお話したことも、記憶になさそうですね」
「美人が多い国じゃなかったか?」
「そういう、テストで訊かれないようなところは、よく覚えてるんだね」
「興味の対象が分かりやすいですね」
「あと、杉田だか、杉下だかって凄い人がいたんだろう?」
「杉原千畝だよ。ちゃんと覚えてね」
「彼は、第二次世界大戦中、外交官として、リトアニアのカウナス領事館に赴任しました。ナチス・ドイツの迫害によって、ヨーロッパ各地から逃れてきた難民たちの困窮に胸を打たれた彼は、外務省からの訓令に反して大量のビザを発給し、六千人を超える避難民を救いました。その避難民の多くがユダヤ系であったことから、日本のシンドラーと呼ばれることもあります」
「思い出した。命のビザの人だ」
「あっさり忘れて、すぐに思い出せるほど、印象の浅い人物だとは思えないけど」
「そう言わないでくださいよ、吉原さん」
「そもそも、何でこんな話になったんだっけ?」
「コンビニの看板が国旗みたいだって話で」
「その前は、何でも近場で済ませるようになると、運動不足になりますねって話でした」
「あっ、そうか。十日に体育祭があるって話だった」
「そうそう。土日を挟むとはいっても、試験が終わってすぐに体育祭はしんどいって話してたんだったね」
「それから私は、試験が終わった解放感で臨むことになりますね、と言いました」
「そうだった。それじゃあ、俺は先に失礼するぜ」
「船が着いたんだ。またね、山崎くん」
「また明日、お会いしましょう」




